養生訓
貝原 益軒
要約
巻第一 総論 上
1 人間の尊厳性
今、自分が生きていることは、いろんな人たちのおかげであることを認識しないといけない。両親が自分を生み育ててこられたことを感謝し、そのほかに自然の恵みにも感謝しなければならない。その感謝の表現として、自分が健康で長寿を全うすることこそが、最大の感謝の表現なのである。
自分が健康であれば、両親やそのほかの人たちは不健康なときよりも安心をしている。それゆえ、自分の身体を不健康な状態にもっていく行為はよくないことである。おおげさにいえば、理由も無しに毛髪を切ることや、肌を傷つける行為などは、もっとも親不孝な行為である。
ひととして生きているのならば、健康で長生きすることは、誰でも願い思う最大のものである。健康で長生きする方法を知り実践することは人生の最も大事なものである、と言っても過言ではないであろう。
不健康なことをして、自分の身体を病むことはとても馬鹿げたことである。自分の欲望と自分の健康とをはかりにかけることについて考えよう。欲望が強いときにでもそのことで身体を壊してしまうことがあるときは、十分考えたうえにその欲望をみたす行為をしないといけない。たとえば、面白い読み物があり夜の寝る時間をさいて読んだとしよう。その時は大変、面白く過ごせたとしても、翌朝とても睡眠不足で体調を崩すであろう。その読み物を前の日に読み終わらなければならない理由がとても重要なものならば仕方ないであろうが、次の日に読んだとしてもかまわないときは自分の欲望をおさえ、自分の体調を維持するほうが大事であろうことは、誰にも分かることと思う。
人生を楽しく過ごすのはいいことであるが、そのことで寿命を縮めることがあってはいいことでない。お金をたくさん儲けたとしても、そのために自分の健康を損ない楽しく生活を過ごせないとしたら、儲けたお金も何も役に立たないであろう。健康で長生きするほうが、大きな幸せではないだろうか。
2 養生の心がけ
どんなことでも、頑張れば頑張るほど、効果がある。たとえば春にまいた植物の種を、夏の間よく世話をすると、秋には収穫が多くなるようなものである。
人の健康も同じで、健康法をよく考え実行すれば、常に健康でいられ、長生きすることができ人生を楽しむことができる。これは、自明であって疑うことがあってはならないことである。
3 若いときからの養生
庭に草木を植えて、いつも注意して育てている人は、草木の成長を見て楽しみ、枯れ衰えていくのを悲しむ。
植物が枯れ衰えていくのは悲しいものだし、自分の体が衰弱するのはもっと悲しい。しかし自分の体を衰弱しないように心がけないような人がいる。なんて愚かなことであろうか。
自分の体を守り長生きをしたいのなら、幼いころより健康を保ちつづける方法を学び実践することが大事である。
4 内なる欲望と外なる邪気
健康法の第一は、体を損なう原因をはぶくことにある。その原因は体の内にあるものと外から入ってくるものがある。
体の内にあるものは、自分自身の欲望を押さえられないことによるものがある。外から入ってくるものは、環境によるものである。
自分の欲望のまま生活しないことや、環境の変化にたいして常に注意していれば、健康で元気に暮らせ、病気にかかることもなく寿命をまっとうできる。
5 七情を慎む
自分の欲望を押さえるのは、健康法の基本である。欲望を押さえると、体の調子を上げることができ、外の環境に負けることがなくなる。その逆に欲望のままに暮らすと、体の調子を落とし、外の環境についていけず、健康を害し寿命を縮める。どうすれば、自分の欲望を押さえることができるか、考えてみよう。
食事の量は、適度にして大食をしない。胃腸に負担をかけるものを食べない。性欲も度をすぎないようにする。睡眠は長時間とることがないようにする。長時間、すわることもよくない。運動不足にならないよう、適度に運動をして気分転換をはかる。
とくに食後は少し散歩をするとよい。食後に昼寝をしたり、食べたあとすぐに眠ることが習慣になると、消化不良になって病気の原因になる。そうすれば、体を衰弱させてしまう。
6 天寿と養生の術
普通、人は長寿である。でも、養生せずに暮らしていると自分の寿命を縮めてしまう。逆に生まれつき虚弱体質で普通の人よりも長寿ではない人でも、養生に心を配れば意外に長生きできるものである。
不摂生に暮らしている人は、みずから自殺をしているようなものである。死の時期こそ違うが自らの身体を痛めつけることは、同様であるのだから。
7 命の長短は養生次第
老子は、「人の命は我にあり、天にあらず」といっている。人の命は天からの贈り物だが、その寿命はわれわれの心次第で変わる。健康を考え暮らせば長生きできるし、そうでなければ短命になる。
炭火を風に当てれば早く消えるし、みかんも箱にしまっておかなければすぐに腐ってしまう。人の寿命もそれらと同じものであろう。
8 生命と外物
人は、この世界で誕生しこの世界で生きる。つまり人が生きていくことはこの世界の恩恵によってである。父母やこの世界に恩を持たなければいけない。
食べ物は身体の養分になる。食べ過ぎなければ、身体の健康を維持する。でも食べ過ぎると、身体によくない。植物でも、水や肥料をたくさん与えると枯れてしまうのと同じである。食事というものは楽しい行為であるが、ほどほどにして、精神的に楽しいことを見つけるほうが、身体のためになる。
9 心を養う養生術
いつも心は平静にして、怒りや心配事を少なくすることが、心の健康法である。
寝ることを好きになるのはよくない。長く眠ると血の巡りが悪くなり、また食後すぐに眠ることはとくによくない。お酒はほろ酔い程度がよく、深酒はしないほうがよい。
食事は腹八分目でおさえ、腹一杯になるまで食べてはいけない。
若いときから、色欲を抑えるのがいい。薬や栄養剤を多用しても、あまり役には立たない。
食後は軽い運動を行い、腹ごなしをするのがよい。また同じところに長い間おなじ姿勢で座ることはよくない。
養生の道とは、病にかかっていないときに行うことであり、病にかかってから行うことは養生の最後の手段である。
10 嗜食と忍
嗜食というのは、音を聴き、飲食をし、身体が色を好むという人間の欲望のことである。欲望のおもむくままに生活をすれば、身体に悪い影響を与える。欲望を抑えることは、善につながることである。養生とは欲を抑えて「忍」の文字を大切にすることである。
11 外邪を防ぐ法
強い風を長い間うけたり、寒いところにいたり、暑い場所に留まったり、湿度の高いところにいなくてはいけないことがあり、体に悪い影響を受けることは、しばしばあるだろう。でも、いつも身体を健康に保とうと努力していたならば、体に受ける悪い影響を少しは防ぐこともできる。食べ過ぎや色欲に狂うのは、自分の責任であるので、それは季節やその他のものに責任を転嫁できない。
まわりの悪い要素も、食べ過ぎや色欲に狂うことも、できるかぎり避けなければいけない。
12 養生は畏れの一字
「畏」は、身を守る心の法である。自分の欲望を畏れることは、欲望を慎むことである。欲望を慎むということは、養生の肝腎なことである。
13 養生を害するもの
食べ過ぎ、色欲に狂う、過労などは、身体によくない。また遊びすぎたり、睡眠を長くとることは、気力をなくすことになる。身体によくないことや、気力をなくすことは、養生をするものにとっては、してはいけないことである。
14 心の静と身体の働
心は身体の支配者であるから、心を平静にすると身体にも良い。身体は、動かすことによって血の巡りをよくし、病気に罹りにくくなる。
15 薬・鍼灸よりも予防を
薬や鍼灸を使うことは、健康を守る方法としてはあまりいいことではない。健康を守る方法としては、体を適度に動かし食欲を増やし、規則正しい生活をすることこそが正しい健康法である。
薬は、体の調子に合わせてうまく使わないと、いくら良い薬でも毒になる。薬や鍼灸などはよほどのことがない限り使わないのがいいだろう。
16 養生の道を守る
君子といわれる昔の偉い人たちは、礼楽・弓・乗馬・詠歌・舞踏などを行って適度な運動や精神の静養を行い、病にかからないようにしていた。
病気になってから薬や痛い鍼、熱い灸などを行うのは、自分の体を痛めて病気をなおすことであるから、自分の体にいいわけはない。国を治めることも同様で、国の治安がわるく乱が起きて、それを武力で鎮圧するのではなく、治安をいつもよくするように心がければ国民はいつも気持ちよく生活をすることができるので乱も発生せず、国を治める君子も国民から尊敬されることであろう。養生の道もまたこれと同じことである。
17 身体と運動
毎日、少しずつ運動をすれば血行がよくなり病気にかかりにくくなる。運動はただ、散歩するだけでもよい。そうすれば、鍼・灸など痛い思いをしなくても健康は保てる。
18 人間は百歳を上寿とする
人間の寿命は100歳をもって上限とする。上寿は100歳、中寿は80歳、下寿は60歳である。60歳以上の人は長寿である。50歳でなくなっても、それは若死にとはいわない。
長命するひとは少ない。それは養生を心がけていないからである。
19 人生五十年
人とは50歳になるまでは、本当の生き方を理解できないものである。50歳までに死ぬことは、若死にである。長生きしないと、学問や知識は上達しないし発達もしない。
長生きとは運命で決まるものではなく、人が長く生きたいと思う心が大事であり、欲の深い人や自暴自棄な人は長生きできないものである。
20 内敵には勇、外敵には畏れ
人の体は、そんなに頑丈でない。環境に左右されるし、自分の欲望によっても体は傷つくことがある。
生まれつきほかの人たちより強い人がいたとしても、その人が養生のすべを知らなければ、生まれつき体の弱いひとよりも長生きはできないであろう。
長生きで健康でいるためには、少し臆病なもののほうが、いいのかもしれない。
21 元気をたもつ法
元気でいるためには、体によくない状況をなくすことと、体を強く保つための心がけをわすれないことであろう。
水田を耕すには、雑草を取り除き肥料をやれば、うまくいく。元気でいる方法も、水田を耕す方法も、同じものである。
22 人生の三楽
人として生まれたならば、三つの楽しみを知らないのは悲しいことである。一つはいい行いをして自尊心を高める。二つは健康で心配事がないこと。三つ目は長生きをして、人生を十分に楽しむことである。この三つを行うには、養生の教えをよく守ることである。たとえ、お金持ちであっても、後ろめたい気持ちをもっていたり、病気がちであったり、短命な人生であるのなら、この三つの楽しみは得られない。
23 人命の貴さ
宇宙に寿命があるならば、それは人と比べればはるかに長いであろう。人の寿命とは、宇宙の寿命に比べればはるかに短いものだ。その短い寿命を、さらにその人が養生の道を行わず寿命を縮める行為をするのはおろかなことだ。
個人的には、宇宙には寿命などないと思っている。あらゆる宇宙がその存在を変えながら永遠の昔から存在し、永遠の未来を持っていると思っている。
24 勤勉即養生の術
健康にいるためには、適度な運動が必要である。長く座っていたり、寝ることを好む人などは健康をたもつには適していない。食後の散歩は、食べたものを消化させるために、血行をよくめぐらすために必要である。食事のあと、すぐに寝ると言う行為はこのことからもよくないことである。逆にいえば、肥満防止になるかもしれないが、それは肥満になるような生活事態がよくない。
適度な運動を行うことは、すなわち働くことも意味し、勤勉に働くこと自体、健康法なのである。神様でさえ働いているのだから、人も勤勉でなければいいけない。
26 家業の中の養生
いつも仕事で忙しい人などは、養生のすべを行うことができないという、誤った考えを持っている人もいるだろう。しかし、いつも働いている人よりも、なにもせずに暮らしている人のほうが、健康にはよくない。流木は腐らないし、いつも動いている扉の蝶番は長持ちする。それゆえに、人はいつも働いているほうが、いいといえる。これも養生のひとつである。
27 常と変と養生と
いつも自分の体の健康のことばかり考えていると、いざ必要なときに力を発揮できないことがある。体によくないといって急ぎの仕事を片付けるために残業を断ることは、まわりに迷惑をかける。状況によって、どうするかを考えるのも必要なことである。夏は薄着をするし冬は厚着をするように、臨機応変な行動も必要である。
危急のような場合に力を発揮できるように、常日頃、健康に心を配っておく必要がある。
28 睡眠と養生
意外と知られていないのが、睡眠を長くとるのはよくないことだ。睡眠を長くとると、元気を奪われてしまうのだ。睡眠を短くするのはつらいことであるが、努力して睡眠時間を短くすれば、習慣となるであろう。
29 養生と口数
口数が多いのはよくない。多いと、気をつかいすぎるからである。言葉を慎むのも養生のすべである。
30 少しの不養生と病気
たとえささいなことでも、体によくないことをするのはよくない。ささいなことであっても、それが原因で大病を引き起こすこともあるからだ。たとえば、小さな火であっても大きな火災のもとになるようなものだ。だから常日頃から、ささいなことにまで気をつかうことを忘れてはいけない。
31 天寿の全うは養生から
生まれつき健康な人でも不健康な生活をすれば、早死にする。逆に体が弱い人でも、健康に気をつけながら生活をしていれば長生きできる。
白楽天の言葉に、「福と禍とは、慎むと慎まざるにあり」とあるが、その通りであろう。
32 富貴財禄と健康長生との違い
財産を持てる人は、運がいい人であろう。でも、運がいいといっても健康をもてるとは限らない。健康は自分が努力しなければ得られないからだ。財産を得た運のいい人であっても、短命で終るというのははたして運がいいといえるのだろうか。
33 血気の流通は健康のもと
四季は移り変わるゆえに、一定の秩序がある。秩序が崩れれば、冬は暖かく夏は寒く、大雨大風など天変地異が起こる。
人の身も同じで、常に血気を流通させることで健康は保たれる。
34 心と主体性
自分の信じる基準を持つことが大事である。信念ともいえるかも知れないが、それがあれば善悪の基準を決めることができるため、悪いことをしないようになる。そうすれば、体によくないこともしないであろう。
35 我慢と養生
酒を飲むと気がよくなる。しかし後日、健康を壊すおそれがある。酒をのまずその快感を我慢すれば、後日の憂いがないのも確かである。
36 予防と養生
病気になってから治療するのは、大変つらいことである。賢いひとならば、病気にならないように努力するほうが、病気を治療するよりも楽であることを知っている。
すばらしい将軍とは、「戦わずして戦いを勝つ」ということであろう。
37 気ままをおさえる
若いときは力があるので、それを過信すれば病気になってしまう。それゆえに年齢に関係なく、健康には気をくばるべきである。
38 欲を少なくすること
古代の人たちは、欲を持ちすぎると体によくないと言っている。欲を満たすために無理をするというのは、健康にとってはとてもよくないことであるからだ。
39 とどこおりと病気
いつも、気は体全体に満たしていないといけない。胸にだけしまいこむことはよくない。怒り・悲しみ・憂い・思いなどは胸にこもりやすいものだから、そういうことのならないようにいつも心がけることが大事である。
40 偏しないことが養生法
義と理とはともに大事なものである。義ばかりに偏ると、理を無視してしまうし、義ばかりに偏ると理を無視してしまう。義とは、人情のようなものであるし、理とは物事の仕組みのようなものである。物事の仕組みばかりを大事にすると人を傷つけるし、人の情ばかりに気を向けると社会の秩序を乱してしまうことがあるということだ。
巻第一終
巻第二 総論 下
1 食後の養生法
朝は早起きをし、手と顔を洗い髪を整え、便所にいき、食後は腹をなでおろし消化を助けるのがいい。さらに、第十二助骨部の部分を人差し指の内側ですじかいに、繰り返してなでるのがよい。
ついで腰をなでおろし、その下部を静かにたたくこと。強くたたいてはいけない。もし食べ物が胸につかえたときは、上を向いて2・3度ばかりげっぷを試みると効果的である。
朝夕の食事の後は、長く座っていてはいけない。さらに横になって寝るのはもっとよくない。長く眠れば、気をふさいでしまい病気になり、それを続けると短命になる。食後は300歩ほど歩くのがよい。時にはもう少し長く歩くとさらに、よい。
2 労働の大切さ
家にいるときは、自分の体力にあった労働をするのがいい。立ったり座ったりする動作にかかわらず、部屋の中ですることは、なるべく自分で行うのがよい。そうすれば、人を使うときの気を使わずにすむし、自分の行いたいことを正確に行うことができる。
常に体をうごかすようにしておけば、気と血液がよく循環し、食物もよく消化するので、病気にならない。しかし、無理をするほど動き回ったりするのは、疲れるのでよくない。自分にあった適度な運動をするのが一番よい。
3 働くことは養生の道
人の体は、時々運動をし、手足を働かせ、よく歩き、同じ場所に長時間すわらないようにすれば、健康でいられるものだ。
流水はくさらないが、たまり水はくさる。開き戸の開閉する軸は虫は食わない。つまり常に動いているものは、悪くなりにくいものであるということである。
人の体も同じで、同じ場所に長時間すわったり、食後にすぐに寝てしまうと、病気になりやすいのだ。養生の道とは、こういうことをしないことだ。
4 『千金方』の養生法
『千金要方』での養生の道は、「久しく行き、久しく坐し、久しく臥し、久しく視る」ことは禁物であるといっている。
長く行くこと?、長く座ること、長く横になること、長く契る?ことはよくないということである。
5 寝る時間を少なくする
食後、すぐに寝るのはよくない。昼間に寝るのはもっとよくない。病気の原因になる。もし、とても疲れていて昼寝をするときは、短い時間にすべきである。
6 昼寝の禁止
日の長い季節になっても昼寝をしてはいけない。人によってはその季節になると、日が沈めばすぐに眠くなるかもしれない。そういう人は夕食のあと軽い運動をしたり、散歩をしたりして防ぐのがよい。眠らなくても横になっているのもよくない。夕方の時間は起きていなければいけない。
こうすれば、夜になっても起きていられる。できれば、夕方の時間に横にならないのが一番よい。
7 過信の戒め
養生の道は頼む心を戒めている。
自分の体が丈夫だから、若いから、病気がよくなったからといって、気を許してしまえば、健康の道から外れてしまう。刃のするどいもので硬いものを切ると刃こぼれするように、自分の内臓が強いといって飲食や色欲に油断をすれば、病気になってしまうということである。
8 小欲をすてよ
宝石をスズメに投げて得ようとすることは、ばかげている。それと、同じで人の一番の大事な健康をかえりみずに生活をし、病気になるということは、小石のかわりに宝石を使ってスズメを得ようとしていることとかわりないことである。
9 心は楽しく身は労働
人は悩み事をもたず、毎日からだを動かし働いているのがよい。休みすぎで、好きなものを食べ、酒を飲み、色を好み、体を休めすぎていると、かえって健康にはよくない。
病気でもないのに、栄養剤や薬を飲むのもよくない。子供をあまやかしすぎると、子供本人にとってもよくないことと、同じことである。
10 長命と短命
長命と短命を決めるのは、人の生き方による。自分の思うがままの生活をつづければ、健康を損ない短命になる。逆に節度をもった生活を続ければ長命でいられる。
11 予防の必要性
将来の問題に対して悩むことは、問題が起きる前に手立てを考えるということである。将来のことを思えば今の生活のことを慎重に考えて暮らすことが大事である。
12 酒食・色欲を慎む
酒色、色欲のおぼれていても、その楽しみをすべて味わう前に人の体のほうが、滅んでしまうものだ。
13 元気を養う
人の生命力というのは、使えば減るし、増やす努力をすれば増える。このバランスがマイナスなら、どんどんと生命力が少なくなり病気になりやがて死ぬであろう。多くの人は、増やす努力もしないから短命で終わってしまう。生命力とは限りあるものだから、限りのない欲望にそれを使うのは間違っている。
14 慎みは健康のもと
一生を平穏に過ごすためには、人は毎日の生活を振り返り悪いことを止め、無理な生活をしないで暮らせば、達せられる。
15 はじめの自制
楽しいことを続けていれば、必ずあとでつらいめにあう。楽しく生活するために努力をしてから楽しむべきであろう。
16 養生法の要点
養生の道は他言を必要としない。
実行することは、大食せず、体に悪いものを食べず、色欲をおさえ、悩み事をなくすことである。
心を平静にし、言葉を少なくし、まわりの環境に合わせた生活をし、適度な運動を行い、食後にすぐ寝ないように心がけることが大切である。
17 飲食と睡眠
食事は体をつくり、睡眠は気力を回復させる。食事を控えすぎると胃を痛める。長く横になって寝るのは、健康によくない。
食事と睡眠によって健康を得ようとすると、かえって病気になることがある。朝早く起き、夜はふけてから寝る。昼寝をしないで、仕事をさぼらずにこなす。睡眠は短く、食事は少なめにすれば、おのずと健康になるものである。
18 道を楽しむことと長命と
貧しくても、その人が楽しく生活を過ごしているならば、大きな幸福といえる。日本には四季があり、それだけでも楽しく暮らしていけるものである。このように楽しい生活を年多く続けていけば、長命になるのは間違いないであろう。『論語』に「知者の楽しみ、仁者の寿き」という言葉かあるが、それに近づくような生活を行えば、長命になるであろう。
19 心を平静にして徳を養う
穏やかな気もちでいれば、おのずと特がつき、健康になる。しゃべりすぎの人はいつも心が乱れるゆえに、徳をそこない、健康を損なう。徳を損なうということと健康を損なうということは、同じものである。
20 山中の人は長命
山中で暮らしている人は長命である。
山中は寒いので、体の元気を逃がさないようにしないといけないから、長命になる。逆に暖かな地域に住む人は、体の元気を別段にがさなくても暮らしていけるので、短命になる。
山中の人は人々との交際が少ないから、静かに暮らせる。また山の中なので魚や肉をあまり食べることもない。それゆえに長命なのである。
ところが町に住んでいると、人が多く神経を使い、多忙になるゆえ、病気にかかりやすい。また海辺の近くに住んでいると、魚をたくさん食べるので、病気にかかりやすく短命になる。
町の中でも、海辺に住んでいても、欲を抑え魚肉をほどほどにすれば、こういう害もないであろう。
21 心の楽しみを知る
静かに家の中ですごし、古書を読み、詩歌を楽しみ、香をたき、名書を見、山水を眺め、月花を賞し、草木を愛し、四季の変化を楽しみ、酒を少量たしなみ、自家栽培した野菜を煮たりるのは、すべて心を楽しませ気を補うものである。
貧乏であっても、このような楽しみはいつでもできることである。この楽しみを知っている人であれば、財産をたくさん持っていてもこの楽しみを知らない人よりも優れているといえる。
22 忍と養生
自制すれば災いなく、しなければ不幸になる。怒りや欲といったものは抑えなければいけないものだ。
すなわち、自制とは「忍」ということである。
23 胃の気と生命
胃の気というのは元気の別名である。病気であっても胃の気があれば生きるが、胃の気がなければ死んでしまう。
生気ある目をしているものは長生きできるが、ないものは短命である。病人を診察するときは、このことを忘れてはいけない。
24 荘子のたとえ
牛をさばくとき骨と関節の広い隙間に包丁をいれると、包丁の刃は研いだように鋭いままで長く使える。
この話と同じで、世間においても争いごとをさけ理にかなったことをしておけば、世間から非難されず、まわりの世界を広く感じられ、長命でいられるものである。
25 気をへらさない
喜びや楽しみを表面に強く出すと、疲れる。かといって、孤独で憂いや悲しみをもつと、気が滅入ってしまいよくない。
26 気を養う法
騒がず、あわてず、ゆとりをもち、怒ったりせず、大声を上げず、穏やかな気持ちでいて、不平をいって怒らず、悲しみを少なくし、どうすることもできない失敗をくやまず、過失があっても一度反省すれば二度とくやまず、ただ運命にしたがい生きていくことが、心気を養う方法である。
養生を欲する人は、このようなことを忘れてはいけない。
27 唾液は大切に
唾液は身体のうるおいである。血液となる。
草木もうるおいがないと枯れる。それと同じで人にとっても唾液は大切なものである。唾液は内臓から口に出てくる。大切にして吐いてはいけない。つよく吐き出すのは、さらによくない。つよく吐くのは、力が必要であるからである。
28 唾液と痰と
唾液は飲み込むのがよく吐いてはいけない。たんは、吐き出すべきで飲み込んではいけない。たんは紙でとるようにして、つよく吐き出すのはよくない。
飲んだ水や唾液がたんになれば、そのたんは再び唾液にはならない。たんがあるのは、身体によくない。たんを飲み込むのはよくないことである。酒を多く飲めば、たんができる。その結果、唾液がへりたんがふえるのである。
29 病気にあった治療法
何事でも、あせるとよくない結果になることが多い。病気の治療もおなじことである。
病気になったからといって、あわてて医者を選ばずに決めたり、薬を用いたり、針灸をやたらにするのは、よくない。
あんまも、同じでよくない。病気の種類によって適当な治療を受けるべきである。
温泉療法も同じで、かかっている病気とあわない温泉療法はよくない。かえってわるくなり、死んでしまう。
治療をするときは、間違った療法をしないようにしないといけない。
30 養生もまた習慣
善悪とは、毎日の生活の繰り返しにより生まれ出てくる。毎日、つつしみ努力を惜しまなければ、悪となる。
それは養生の道も同じで、いつも欲を抑え慎みをもつことを努力しなければいけない。毎日繰り返せば習慣となり、養生の道も苦痛でなくなる。しかし、毎日なにも行わなければ、養生の道はとてもつらいものになる。
31 みずからの力量を知る
なにごとにおいても、自分の力を知ったうえで行うべきである。自分の力以上のことをすると、無理が出てしまう。すると、病気になる。自分の力量にあったことをするべきである。
32 元気を惜しむ
若いときも、年をいったあとも、健康でいられるよう努力すべきである。若いときは、それだけで健康であるといっても、やはり健康については注意すべきである。
年をいってから健康に気をつけるというのは、お金があるときは散在をし、貧乏になってから節約をすると、いったことであろう。しないよりは、いいかもしれないが、若いうちから健康に注意を払っておくべきであろう。
33 元気を乱費しない
自分の体力をむやみに浪費しないようにする。たとえお金持ちであっても、無駄な浪費をしないと、いうことである。そうすれば、長生きできる。
34 養生の要点は忍耐
養生の要点は、自分に正直であり、かつ我慢もすることである。
たとえば、食事を多くとることは悪である。悪を知らなければ、食事を多くとることを悪とは思わない。悪を知って食事を多くとることは、自分で自分を苦しめる結果になる。正直であるには、悪いことを悪いと理解し、正しい生活をすることである。
35 欲望の日々は自殺への道
生まれつき短命な人は少ない。しかし、養生の方法を知らずにいると、長生きできる人であっても短命に終わる。不老不死に近い人であっても、のどを刀で貫けば、死んでしまうようなものである。
自分の欲望のまま生活を続けている人は、本当の寿命より短い時間しか生きられない。時間の長短こそあれ、これは自殺している行為と同じことである。
36 完全無欠を求めるな
いつも、完全無欠を求めていると疲れるものである。最上を求めるのはしかたないかもしれないが、自分が多少とも気にいることがあれば、それでもいいのではないだろうか。
37 養生の効果を知る
養生の道を知っていれば、それを実行しないということはない。それは、自分にとってよくないことを進んでしない、ということでわかる。人は水の中に入ると溺れることを知っているから、水の中に入らない。炎のなかにはいれば、焼死することを知っているから、炎のなかには入らない。毒を飲めば死ぬことを知っているから、毒は飲まない。それと同じで、養生の道を知っていたなら、体に悪いことをしないということである。つまり養生の道を行うということである。
赤ん坊が、危険なことを知らないゆえに危険なことをすることがある。人もまた、養生の道を知らないから欲のおもむくままに生活をするのである。養生の道を知っていたならば、欲のおもむくままに生活をしたりしないものである。
愚かな人は、自分が不幸になるであろう行動をしていても、その行動について深く考えていないものだ。盗人は、捕まった後のことを考えずに悪いことをする。それと同じことだ。
38 楽しみは養生の根本
人は楽しみを捨ててはいけない。欲を自制するあまり楽しみをなくしてしまうのは、よくない。それは偉大な人たちはみな、楽しみを持っていることでもわかる。
39 畏れと慎みと
食欲、色欲を少なくし、いつも安らいだ気持ちでいて、危険なことを避けて暮らしていれば、長生きできる。たとえお金持ちになったとしても、それ以上に長生きできることのほうが、大事なものである。
40 酒は微酔、花は半開
なにもかも充足してしまう状態になったときは、心配ごとが生まれる兆候たど思っていい。酒もほろ酔い具合が一番楽しいときである。花も満開になる前が見時である。満開になれば、あとは散るのを待つだけだからである。
41 一時の我慢
一時の浮気であっても、人生を破壊することがある。少しだけなら、と思っていてもとても大きな害を生むことがある。
42 過不足のない中を守る
中道を行くことが大事だ。たとえば、食事も腹八分目がいいように、すべてのこともそうあるべきだ。
43 ゆったりとした心
常に平穏な気持ちでいることがよい。言葉が多く無駄口が多いのは、よくない。これは養生の最上の方法である。
44 動と静との養生
人は精神の力を持って生きている。精神力を保つには、心を平静にし、適度な運動を行って血行をよくするといい。
45 大風雨と雷に対して
大風雨や激しい雷のときは、たとえ夜であっても衣服を整えて起きていなければいけない。横になっていてはいけない。いざというときに動けないからである。
46 客としての心得
よその家に行ったときは、あまり長居しないのがいい。夕方には帰るほうがいい。よる遅くまで滞在すると、相手も自分も疲れるからである。
47 気から百病生ず
「病は気から」ともいわれる。怒ったり、喜んだり、悲しんだり、恐れたり、寒かったり、暑かったり、驚いたり、苦労すれば、気持ちが乱れる。それで病気になる。
そのために、気を大事するために、心を平静にして、からだを適度に動かして血気を循環させることが必要である。
48 丹田に気を集める
人の生命を司る気というものは、腹の奥深くに集めるのがいい。そうすれば、何がおこっても慌てず落ち着いた気持ちで対応できるからである。
特に大事なことを処理する人には、この術が必要である。そうすれば、力を十分に発揮できるからである。
49 七情と養生
感情とは、「喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲」である。また医学的に感情とは、「喜・怒・憂・思・悲・恐・驚」である。欲とは、「耳・目・口・鼻・身・意」である。怒と欲は、人にとってあまりよくない感情だ。怒りとは炎のように人を焦がし、欲とは深い海ように底がなく人を冷たくする。どちらも気をつけなければいけない感情である。
50 養生の要訣と十二少
養生の秘訣とは、すべてのことがらに対して、控えめにすることである。自分には手に負えないことを続けて無理をするよりも、余裕をもち行動するほうが、からだにとってはいいからだ。
自分の欲望も、おさえて暮らすほうがいい。
51 養生の四大要
欲を少なくし、環境から身を守り、身体を適度に動かし、睡眠を控えること。この4つが養生の大要である。
52 気を養う術
穏やかな気持ちでいて、決して動揺してはいけない。落ち着いていて、むやみに気を動転させてはいけない。ゆっくりして、慌ててはいけない。口数を少なくして、気をあまり使わない。たえず、体の力を腹の下にためておく。これらが、気を養う術である。
53 気の循環
歌を歌い、舞踏を舞うことは、気を養い血行をよくする。これらは、養生の道である。今日のあんまと言われるものも、この一種であるといえる。
54 養生の四寡
心配事を少なくし、欲を抑え、飲食を控えて胃を守り、言葉少なくすることは、養生の四寡という。
55 養生の七養
言葉を少なくし内部に力をためる。色欲を控え精気を養う。味の濃いものは食べず、血気を安定させる。唾液を飲み、内蔵を休める。怒りを抑え、腹を立てない。飲食を控え、胃を休める。心配事はしない。これらは、養生の七養という。
56 修養の五宜
髪は多く切るのがいい?。手は顔に当てる。歯はしばらくたたくのがいい。唾液は常に飲むのがいい。騒がず、静かにしているのがいい。これを修養の五宜と孫真人はいう。
57 同じ状態をつづけるな
長時間歩き、長い時間すわり、横になり、語りつづけてはいけない。長時間、行動をすると気が減るからである。長い時間遊ぶと、気がふさがりよくない。
58 養生の四要
養生の四要は、「怒らず、心配せず、口数を少なくし、欲を少なくする」ことである。
59 四損と養生
遠くにつばを飛ばすと気がへる。。多く寝ると神経が弱まる。多く汗をかくと、血が悪くなる。病になると体力が弱まる。これを四損という。
60 老人の痰
老人は痰に苦しむが、痰きりの強い薬を使い、すべて痰を出してしまうのはよくない。昔からの言い伝えである。
61 呼と吸と
呼吸は、鼻からたえず出入りしている息のことである。呼吸をしなければ人は死んでしまう。体の外の空気と体内の空気は同じものである。しかし体の中に入った空気は汚れる。それを外の清らかな空気と入れ替えているのが呼吸である。たまに大きく空気を吸い込むといい。しかし、急に吐き出すのはよくない。
62 『千金方』の呼吸法
鼻から息を吸い込み、口より吐き出す。入る空気を多くし、でるのは少なくする。(できるのか?)出すときは、口を細く開き、少しずつ出す。
63 呼吸はゆっくりと
いつも呼吸はゆっくりとする。そして体の奥にまで届くような気持ちで吸い込む。急いで呼吸してはいけない。
64 調息法
呼吸を整え、静かにしていると、息が次第に少なくなる。これを繰り返すと、息遣いがないようになる。ただ腹の中からかすかな息をしているのを感じるだけになる。かくして神のごとくなる。これが気を養う術である。呼吸は体内の気の通路であるから、荒荒しくしてはいけない。
65 心の養生と身体の養生
心を落ち着け、怒りを抑え欲を少なくし、いつも楽しみ心配事をなくす。これが心を守る術であり、養生の術である。これは特別な術でなく、養生の術である。
66 夜ふかしの害
夜、本を読んだり人と話し合ったりするのは、12時までとしないといけない。深夜まで起きていると、神経が高ぶり静まらなくなるからである。
67 環境を清潔に
身の回りを清潔にしておけば、体のなかもきれいになる。それゆえに、居間はいつも埃を取り除き、庭もきれいに整備しておくことである。机の上も整理して埃をなくす。そうすれば、心も清らかになり、身体の運動も行うことができる。みんな養生の助けとなることである。
68 天地陰陽について
世界の仕組みでいうと、陽が一で陰が二である。水は多く火は少ない。水気は乾きにくく、火は消えやすい。人間は陽に属し少ない。鳥獣虫魚は陰に属し多い。
いい人は少なく陽である。小賢しい人は多く陰である。善はすくなく、悪は多い。
暑いとき水は多く、寒いときは少ない。これは春夏は陽が多いので水が増える。秋冬は陽が少なく水も少ない。これは、陽が多いときは陰もそれに従い増えるということである。吐血、刀傷、産後の出血のとき、血を補うと人は死ぬ。血ではなく気を養えば、自然に血が増える。
血は多いので陰である。それをたくさん補うと体は死んでしまう。気は少ないので陽であり、これを増やさないといけない。
毒を使うと、陽が減る。昔の医者が、陰を増やすのがいいと言ったこともあるが、それは間違いである。
巻第二終
巻第三 飲食 上
1 元気は生命のもと、飲食はその養い
人とは、天と地から生まれてきた。しかし、人が元気に生きていくには飲食により養分を毎日とらなければいけない。たとえ、半日でも飲食をぬかすことはよくない。
でも、飲食とは欲望の一つである。欲望のおもむくままに飲食を続けることは、胃腸によくない。度を過ぎれば、生命にもかかわることである。
胃腸から取り込まれた養分が、身体を養っている。草木が土のなかの栄養を取り込み生きているのと同じ事である。養生の道とは、胃腸を整えることが第一である。
2 病いは口から
人は毎日のように食事をする。食事とは楽しいものであるが、度をすぎるほど取りすぎることはよくない。口から出し入れするものには、注意が必要ある。
3 聖人の飲食
聖人の飲食の法とは養生の要点である。
4 熱飲、冷飲をさける
ご飯はよく火を通し中まで柔らかくなったものがいい。堅いものや粘っこいものはよくない。そして温かいうちに食べるのがいい。吸い物も熱いうちがよい。
酒は夏でも温めて飲むのがいい。冷酒は体によくない。冬は熱燗がよくない。気が上ってよくないからである。
5 飯のたき方
ご飯の炊きかたにも、いろいろある。健康な人には普通に炊く。胃痙攣をおこしている人には、たいたご飯に湯を入れて二度炊きするのがいい。胃腸の弱い人には、水を多めにして炊くのがいい。粘っこいのは気をふさぐのでよくない。堅いのは消化しにくいのでよくない。新米は米の気が強く、体が弱っている人にはよくない。早稲(早く成熟する稲)は、病人にはよくない。奥稲(おそく成熟する稲?)は性分が軽いのでよい。
6 淡薄なものを食べる
すべての食事はあっさりしたうす味のものがよい。濃い味や脂っこいものをたくさん食べてはいけない。生もの、冷えたもの、堅いものは禁物である。吸物は一椀、肉料理は一品、副食は一、二品にとどめる。
肉はたくさん食べてはいけない。生肉は続けて食べてはいけない。吸物に肉を入れたときは、副食に肉類をいれないほうがいい。
7 飲食はひかえめに
飲食は人が生きていくために必要なものである。でも必要以上にむさぼってはいけない。食欲を抑えることも必要である。
食べ過ぎてしまい、そのために胃腸薬を服用すると、胃の本来の働きが弱くなってしまう。
食欲を抑えるには、精神力が必要だ。病気になることを怖れることを忘れないようにしなければいけない。
8 満腹をさける
おいしいものであっても、たくさん食べてはいけない。少しだけ食べても、たくさん食べても、そのおいしさを堪能するという点ではあまり変わらないからである。
おいしいと言ってたくさん食べると、健康を損ない後で苦しむことになる。それゆえに、はじめから節度をもって食事を取ることを心がけなければいけない。腹八分目がいいのである。
9 五味偏勝をさける
五味偏勝というのは、同じ味のものを食べ過ぎることをいう。
甘いものを続けて食べると、腹が張ってしまい痛む。
辛いものを食べ過ぎると、血が上り、湿疹ができ、眼も悪くする。
塩辛いものを多く取ると、血がかわき、喉か渇き、湯水を多く飲むようになり、湿疹ができ、胃腸を弱めてしまう。
苦いものを多く取ると、胃腸の調子を狂わす。
それゆえに、いろんな味をまんべんなく食べることが病気にかからないこつである。
10 食物の選択
食物とは、身体を養うものである。それゆえに、たとえおいしいものでも、体に害があるものは食べてはいけない。体を温めるものは良く、体を冷やすものは良くない。生ものや辛いもの、ひどく熱いものも良くない。
11 飯の多食は不可
ご飯は人に力を、よく与えてくれる。と、同時に害もある。ご飯は消化しにくいので、たくさん食べると胃腸に負担がかかる。ほかのものを多く食べ過ぎるよりも、よくない。
よその家に行き、ご飯を食べさせてもらうときでも、言われるままにたくさん食べることをさけ、少しずつ食べるようにすると、相手方にも悪い印象を与えなくてすむ。
ご飯をいつもと同じくらいにしても、ほかのものをたくさん食べると健康には悪い。ご飯を食べた後、茶菓子やもち、麺類を食べると胃腸に負担がかかる。
もし、食後のあとになにか食べることがあるときは、最初のご飯を少量にすべきである。
12 口腹の欲をおさえる
食事のことばかり気にかけている人は卑しい人である。小さなことを大事にして大きなことを大事にしないことと同じであろうから。
食い意地ばかりはっていると、病気にもなるし、酒乱ともなると卑しさ大爆発といったところです。
13 夜食の法
夜に食事をとる人は、なるべく夜の早い時間にとるのがいい。そうしないと、寝るまでに消化しきれない。
夜に食事をしない人も、食事のあとすぐに寝るのはよくない。腹が減っても、夜は仕事をするときではないから、害はないであろう。
酒も同じで、夜は飲まないのがいい。飲むとしても早い時間に少しだけ飲むのがいいだろう。
と、いっても現代は夜の生活も重要であるから、重々気をつける方がいいだろう。
14 食と栄養と
食事を制限しすぎると、栄養不足になると言う人がいる。しかし食事は人の欲望であるから少しくらい制限しすぎるほうが、いいのである。
15 適量を守る
好きな食事が出てきたとき、または空腹時においしく珍しい食事が出てきたとき、または種類多くの品数の料理が出てきても、食欲に負け度を越すほど食べないよう、心がけなければいけない。
16 腹七、八分の飲食
食べ物を見ると人は食欲がわく。それで、つい食べ過ぎてしまうものだ。腹七、八分くらいで食事を抑えておいても、しばらくすれば腹は十分になる。腹いっぱい食べると、あとで腹が張り病気になる。
17 過酒食
食べ過ぎたり酒を飲む過ぎてしまったときに、薬を用いて消化を助けるという行為は、味方の犠牲をいとわない戦いをしないと勝利できない戦争の状況であるといえる。胃腸がその戦場であるということは、胃腸にとってつらいものである。それゆえに胃腸の戦場を持ち込まないためにも、薬を飲まなければいけない状況をつくらないように心がけなければいけない。
18 五思
食事をするときに考えなければいけないことが5つある。
一つは、誰から食事を与えられているかである。父や上司、兄弟や親類、あるいは他人から与えられているかもしれない。それらの人には感謝の気持ちを忘れてはいけない。自力で食物を得ているものも、自分のすんでいる国にたいして恩を忘れてはいけない。
二つは、食物は農民が作り出してくれたことを感謝しないといけない。自分で食物を作り出していないものは、特にそうである。
三つは、自分がなにも貢献をしていないときに食事を取ることがあるときは、とても幸福であることを忘れてはいけない。
四つは、自分の食事よりも貧しい食事をしている人がいることを忘れてはいけない。自分が餓死しないで生きていることを感謝しないといけない。
五つは、昔の人は米、麦、粟、豆、黍を食べることができないために草木の実や根や葉を食べていたのに、今ではそれらを食べることができることを感謝しないといけない。また、火を使い温かい食事をとれることも感謝しないといけない。味もよく、胃腸にもやさしい食事がとれることも感謝しないといけない。(なんか、すごく古い時代の話です。)
今の時代はとてもいいものである。これらの五つのうち、二つくらいでいいから、食事をするときは思い出してほしいものである。
19 夕食は軽く
夕食は朝食より消化しにくいものである。だから夕食は少なめにするほうがいい。味もあっさりしたもので、副食品も多いのはいけない。
魚や鳥など味がこく、脂肪が多いものは夕食に悪い。菜類、山芋、人参、白菜、芋、くわい(オモダカ科の水生多年草、水田で栽培をし地下の球根を食べる。冬から春にかけて収穫できる。)などは、胃腸によくないから夕食に多く食べてはいけない。食べなければ、そのほうがいい。
20 食べてはいけない食物
すえた臭いのするご飯、古い魚、ふやけた肉、色香のよくないもの、よくない臭いのするもの、煮てから長い時間がたったものは食べてはいけない。また間食はよくない。
早すぎて熟していないもの、成熟していないものの根を掘り出して食べることや、時期がすぎて盛りを失ったものは、いわゆる時ならぬものであるから食べてはいけない。
聖人といわれる人は、このようなものを決して食べなかった。
食事はご飯を中心にして、ご飯以外のものをご飯以上に食べることは体によくない。
21 副食は少なめに
飲食のうちで、ご飯を十分に食べないと飢えはいやせない。吸物はご飯を食べやすくするだけである。肉は少しだけで十分である。少しの量で食欲を刺激するくらいでいい。野菜は穀物や肉類ではとれない栄養分を補い消化を助ける。すべての食品にはすべて意味があるものだ。しかし、食べ過ぎはよくない。
22 穀物と肉類
人というのは、元気というものをもって成り立っている。元気は、穀物の栄養分によって生まれる。穀物や肉類によって元気をつくりだしているのである。でも多食して元気をなくしてはいけない。元気が穀物に勝てば長生きできる。
23 飲食の量
胃腸の弱い人、特に老人は食事により病気になりやすい。おいしい料理が出てきても、我慢することが大事である。度をすぎた食事をしてはいけない。食欲に勝てないのなら、勝てるように精神力を鍛えなければいけない。
24 宴の飲食もひかえめに
友人たちと会食すると、ついおいしいものを食べ過ぎることがある。食べ過ぎてしまうことは、健康のうえではよくないことである。
「花は半開に見、酒は微酔にのむ」といわれる言葉があるがこれを実行するのがよい。欲望のまま過ごすことは不幸のもとになる。楽しみの絶頂は悲劇のもとになることが多い。
25 持病と食べもの
食品により体に害があるものはすべてメモを取っておき、その食品は二度と食べないようにする。時間がたってから害を及ぼすものもあるが、これも食べてはいけない。
26 食当たりと絶食
食中りをおこしたときは、絶食をするのがよい。あるいは、食べる量を半分または3分の2に減らすとよい。
食べ過ぎた場合は、すぐに入浴するとよい。
魚や鳥の肉、魚や鳥の干物、生野菜、油っこいもの、ねばっこいもの、堅いもの、もちやだんご、そして菓子類などを食べてはいけない。
27 消化不良と朝食ぬき
朝食が十分に消化しないうちに昼食をとってはいけない。茶菓子なども食べてはいけない。昼食が消化しないうちに夜食をとってはいけない。昨夜食べたものが消化しきらないときは、朝食は抜かせばよい。もしくは半分にするか、酒や肉類をとらなければいい。
食中りをおこしたときは、まず絶食がいい。軽い食中りなら、薬を飲まなくても治るであろう。
養生の術を知らない人は食中りになっても粘っこい米湯などを摂取することがあるが、体に害になるからとってはいけない。食中りの人は、二三日絶食しても、それほど害にはなることはない。(ただし水気を完全に断つのはよくない。)顔が食中りで膨れているからである。(あまり関係ないかもしれない。)
28 煮ものの味
煮すぎたものや、煮きらないものは食べてはいけない。魚を煮るときは十分に煮なければいけない。煮すぎて味を失ったものは、胸にのこりやすい。程よく煮るのがこつである。
蒸した魚は時間が長くなっても味を失わない。魚を多くの水で煮ると味をなくしてしまう。
29 調味料のこと
聖人は食にあった醤(もろみのことではない。塩辛・佃煮のことかも?)がないと召し上がらなかったという。醤とは調味料のことである。
具体的に例をあげると塩、酒、醤油、酢、蓼(「だて」、イヌタデ・ハナタデ・ヤナギタデなどの植物の総称、辛みのある食用の植物のこと)、生姜、わさび、胡椒、芥子、山椒などそれぞれの食物にあう調味料がある。これを食物の中にいれるのは、味を調えるばかりでなく食物のなかの毒素を制するためでもある。
30 中年と食事
食欲は朝夕におこる。貧乏な人でも食欲を自制するのを失敗することがある。まして裕福な人はなおさらである。注意しなければいけない。中年をすぎると、元気が減ってくる。男女の色欲は次第に弱まるが、食欲はなかなか弱くならない。老人は内臓が弱い。そのために胃腸を痛めることが多い。老人が急死するのは食中りの場合が多い。(現在でもそうなのだろうか?調べていないので分かりません。)食事には注意が必要である。
31 新鮮な食物
すべての食物は、みな新鮮な生気のあるものを食べるのがよい。古くなって香りがわるく、色つや、味の変わったものは体によくない。食べてはいけない。
32 好物を少量とる
好きな食べ物は、体が欲している。食べると、身体の足りない部分を補ってくれる。でも好きだからと言ってたくさん食べると、害になる。嫌いなものを少し食べることよりも、よくない。好きなものは少しだけ食べることがいいのである。
33 五つの好み
清らかで新しいもの、香りがよいもの、もろくてやわらかいもの、味のかるいもの、もともといいもの、の五つは好んで食べるのがよい。益こそあれ害はない。これに反するものは食べてはいけない。
34 虚弱者と栄養
病弱な人は、魚鳥の肉を味よくして少しずつ食べるのがよい。薬用人参よりもいい。いきのいい、生魚をよく煮て又はあぶって食べるのがいい。
塩につけたものは一両日すぎたものがもっともよい。生魚を味噌でつけたものを煮たりしたものもよい。暑い夏は長くもたないので用心しないといけない。
35 胃腸の弱いひとと生魚
胃腸の弱い人は、生魚をあぶって食べるのがよい。煮たものをより消化がよい。小さなものは煮て食べるのがよい。大きな魚はあぶって食べるか、古くなった酒に鰹節、煎り塩、醤油などをいれて煮つめたものを熱くして、生姜わさびを加えて、汁によくひたして食べると害がない。
36 魚・野菜の調理
大きな魚は脂肪が多くて消化しにくい。脾虚(脾臓の弱い人)の人は多く食べてはいけない。食べるときは、うすく切って食べると消化しやすい。鯛や鮒を大きな切り身、または丸煮で食べるのはよくない。
大根、人参、かぼちゃ、白菜なども大きく厚く切ったものは消化しにくいので、うすく切って煮ないといけない。
37 生魚の味つけ
生魚は味をよくつけて食べると、早く消化して体によい。煮すぎたり干して脂肪の多くなったもの、長時間塩漬けしたものなどは、よくない。
38 脂肪の多い魚はいけない
ひどく生臭くて脂肪の多い魚は食べてはいけない。魚の内臓は脂が多いので食べてはいけない。塩辛はとくに消化がわるく、痰を生じる。
39 さし身となますと
さしみや、まなす(薄く細く切った魚肉を酢に浸した食品)は、人によっては害になることがあるので、ひかえるようにする。冷え症のひとは温めてから食べること。なますは、老人や病人は食べてはいけない。消化しにくいからである。未熟なものや熟しすぎているのもいけない。
海老のなますは毒がある。うなぎに酢は消化が悪い。大きな鳥の皮や魚の皮は堅く脂肪が多い。これらは消化しにくく食べてはいけない。
40 肉類はひかえめに
日本人は胃腸が弱い人が多いので、肉類やゆで卵をまるごと食べたりすると、消化しにくいので多く食べてはいけない。野菜も大きく切ったものや丸煮にしたものはいけない。
41 生魚の塩づけ
生魚の新鮮なものに塩を薄くふり、天日にほして一両日(一日または二日)すぎて少しあぶり、薄く切って酒にひたして食べると、体に害はない。
42 味噌の働き
味噌は胃腸の働きを助ける。たまり(味噌の上に溜まった液、醤油の一種)や醤油は、味噌よりあくが強い。嘔吐や下痢をする人にはよくない。酢は多くとってはいけない。胃腸によくない。ただし胃痙攣をおこす人には少しならいい。濃い酢は多くとるのは禁物である。
43 野菜の調理
胃腸が弱く生野菜を避けている人は、ほした野菜を煮て食べないといけない。冬になって大根を薄く切って生のまま天日にほす。レンコン、ごぼう、山芋、うどの根などは薄く切って煮てからほす。
しいたけ、松露(担子菌類の食用きのこ、トリュフかも?)、いわたけなどもほしたほうがいい。
松茸は塩漬けがいい。ゆうがおは切って塩に一夜つけて、石のおしをかけたらほす。かんぴょうもよい。白芋(はすいも)の茎に熱湯をかけて天日にほす。これらは胃腸の弱い人にはいい。
枸杞(「くこ」、ナス科の落葉小低木)、五加(「うこぎ」、ウコギ科の落葉低木)、ひゆ(ヒユ科の一年草。インド原産で古くから栽培。)、菊、蘿も(「らも」、ががいも?、ガガイモ科の蔓(ツル)性多年草)(ちぐさ)、鼓子花の葉は、若葉のうちにとって、煮てほし、それを吸物とするか味噌であえものとして食べるのがよい。菊の花は生で干す。これらはひ弱な人によい。古い葉っぱは堅い。海菜は体が冷えるので老人やひ弱な人にはよくない。昆布を多く食べるのもよくない。
44 調理と栄養
食べ物の味が好みでないときは、自分の体のためにならない。かえって害になる。たとえ自分のために作られたものであっても、食べてはいけない。味が好みのものでも、お腹がすいていないいないときは食べてはいけない。食べ物をそまつにするのがいやなら、ほかの人に食べてもらえばいい。
宴会の招かれても、気のすすまない食べ物は食べないほうがいい。また味がよくても多く食べてはいけない。
45 節飲節食
食欲を我慢するというのは、それほど大変なことではない。食事をとる短い時間だけ我慢すればいい。そして、ほんの少し食べる量を減らしさえすればいい。酒の場合も同じである。
46 脾胃の好む十一種
内臓に負担のかからないものとは、温かいもの、やわらかいもの、よく熟したもの、ねばらないもの、うす味でかるいもの、煮立てのもの、清潔なもの、新鮮なもの、香りのいいもの、成分のよいもの、味のかたよらないものである。これらは、身体の栄養となる。もちろん、これらのものであっても食べ過ぎはよくない。
47 脾胃の嫌う十三種
胃腸によくないものは、生もの、つめたいもの、堅いもの、ねばっこいもの、不潔なもの、くさいもの、生煮えのもの、煮すぎて香りをなくしたもの、煮たあと長く置いたもの、果物の未熟なもの、古くなって味をなくしたもの、味のかたよったもの、脂肪が多くてくどいものなどである。これらは、食べない方がいい。
48 暴飲暴食は胃の気をへらす
暴飲暴食を続けたり、間食ばかりしたり、冷たいものや体にあわない食事をすると、病気になる。嘔吐や下痢を繰り返し起こすようだと、胃の負担が増え、短命になる。用心することが大事である。
49 三味を少なくする
塩と酢と辛いものを多く食べてはいけない。これらを多く食べると喉が渇き湯を多く飲みその結果、湿疹ができ内臓の調子を悪くする。湯、茶、吸物は多く飲んではいけない。
喉が渇くものを食べたときは、葛湯のような粘っこいものを飲むといい。葛湯は粘っこく、本来はあまり薦められないが、やむなく飲むのである。
50 酒食のあとの注意
食べ過ぎたり飲みすぎたりしたときは、上を向いて休むといい。手で顔や腹、腰などをなでて胃腸を助けてやるのもよい。
51 食後の運動
若い人は食後、軽い運動をすればいい。でもきつい運動はよくない。老人も、自分にあった運動をすればいい。食後、同じ場所で座り続けたりすると、消化しにくいのでよくない。
52 脾胃の弱いひとに食物
胃腸の弱い人や老人は、消化のしにくい餅や団子、饅頭、冷えて堅くなったものは食べてはいけない。菓子なども控えめにするのがいい。体の調子によっては、それらのものはひどく害になるからである。夕食後はとくに食べてはいけない。
53 薬酒を飲む
昔の人は、寒い季節には毎朝、まろやかな薬酒を少し飲み、春が来たら止めるのがいいと言っている。そういう人もいるだろうが、焼酎で作った薬酒はよくない。
54 肉類は少なめに
肉や果物の味は、少し食べてもわかる。多く食べる必要はない。多く食べて、体を壊すよりも少なく食べてその味を楽しむ方がいい。
55 水の選択
水は清らかで甘いのを好むべきである。生まれた土地の水によって性質が変わるというくらいだから、水はよく選んで使用しないといけない。悪い水は、飲んではいけないし、茶や薬を煎ずる水はとくに清らからものを選ばないといけない。
56天水と雪どけの水と
雨水は成分がよく毒もない。(現代は、酸性雨などで違うかも)器にとって薬や茶を煎じるといい。雪解けの水はもっとよい。雨だれの水は毒がありよくない。たまり水も飲んではいけない。地下水でも元の水がたまり水ならよくない。井戸の水もたまり水が混入していてはいけないから、注意しないといけない。
57 熱湯を飲むな
湯は一度沸かしてから、それを冷まして飲む。沸騰していない湯を飲むのはよくない。
58 小食の効用
小食の人は、胃腸にゆとりができ、食べたものを十分に消化し体の栄養となる。そのため病気になることは少ない。
逆に大食な人は、胃腸に負担がかかり、食べたものを十分消化できない。そして病気にかかり、急死するひとがいる。大食は間違いなく短命のものである。やめないといけない。
繰り返して言うが、老人は胃腸が弱いから大食してはいけない。
59 過食と急死
食べ過ぎた人は、生姜に塩を少し加えて煎じそれを多く飲ませ、たくさん吐かせるのがいい。それから胃腸の薬を服用する。
ところが食べ過ぎの人を脳卒中と誤解して、脳卒中の薬を与えると、かえって害になる。
食べ過ぎの人には、少量でも食事をとらしてはいけない。粘っこい重湯(水の量を多くして米を炊いた上澄みの糊状の汁)はとくによくない。一両日は絶食させてもいい。食中りを脳卒中と間違えやすいが、脳卒中の治療をしても食中りは治らないのどうしようもない。
60 飢渇のときの食事
腹がへったり、喉が渇いたときに、たくさん飲食をするのは胃腸によくない。多く食べるのを我慢しないといけない。消化しきれないうちに次の食事をとるのもよくない。食欲がでてきてから次の食事をとれば、食べたものが十分消化され身体の養分になる。
61 温かいものをたべる
老人や子供は四季を問わず、いつでも温かいものを食べるのがよい。夏の時期や、若くて元気な人でも温かいものを食べるのがいい。生ものや冷たいものを食べてはいけない。胃にもたれやすく下痢の原因になる。冷水も多く飲んではいけない。
62 冷たいものをさける
夏期に瓜類や生野菜を多く食べたり、冷たい麺類を頻繁に食べたり、冷水を多く飲むと、秋になってから必ず病気になる。病気には原因がなければ起こらない。予防が大切である。
63 食後の口内を清潔に
食後は湯茶で口を数回すすぐのがよい。口の中を清潔にし、歯にはさまったものを取り除くことができる。爪楊枝を使うのはよくない。夜は暖かい塩茶(番茶に塩を少し入れたもの。酔いをさます効果があるとされる。)をもって口をすすぐとよい。歯茎が丈夫になる。口をすすぐための茶の温度は中の下くらいのものがよい。
64 他郷での飲食
人がほかの場所に行き水や土が変わり、その水土がなじまずに病になることがある。そうしたときは、豆腐を食べるとよい。
65 山中のひとは長命
山の中に住む人は肉食をすることが少ないので、病気にかかりにくく長命である。海辺の魚肉を多く食べる人は、病気になりやすく短命である。
66 朝粥の効用
朝早く粥を温かにやわらかにして食べると、胃腸によく、身体を温め、唾液ができる。冬期はもっともよいものだ。
67 香辛料
生姜、胡椒、山椒、たで(ヤナギタデおよびその一変種。特有の辛みを有し、幼苗を刺身のつまなどにして食用。)、紫蘇、生大根、生ねぎなどは、食べ物の香りを引き立て、悪臭を取り去り、魚毒を取り除き、食欲を増やす。それぞれの食品にあった香料をほどよく加え、毒をなくすのが肝心である。多く使用してはいけない。辛いものが多いと、元気がなくなり、喉が渇いてくる。
68 飯の味
朝夕の食事のたびに、最初の一椀のご飯は吸物で食べるのがよい。おかずを食べるのは、その後からでよい。そのほうが、ご飯の持つ本来の味を楽しめるからである。それにおかずの量が少なくてすむ。おかずを最初から食べると、ご飯の味がわからない。
これは養生の観点からいっても、よいことだし、経済的である。ご飯の味のよさを知るばかりでなく、消化もよく害にならない。
69 就寝前の注意
寝るときになって胃もたれになり、痰がでるようであれば、少し痰切りの薬を用いるのがいい。寝てからの痰は危険である。
70 点心は食べないがよい
日が短い時期、昼のあいだに点心(茶うけの菓子)を食べてはいけない。日が長い時期も多く食べないほうがいい。
71 夕食と朝食
夕食は朝食よりも少ないのがよい。副食も同様に少ないのがよい。
72 煮もののよしあし
煮物は、すべて煮えて柔らかいものを食べるのがよい。堅いもの、半煮えのもの、煮すぎて味のなくなったもの、口に合わないものなどは食べてはいけない。
73 宴会での飲食
家にいるときは、食べ過ぎたり飲みすぎたりすることに気をつけることができる。でも、招待された宴会などでは、料理の仕方や味が気に入らないことや、副食が多いためつい食べ過ぎてしまうことがある。客になったとしても、飲食の節度を慎まなければいけない。
74 食後の力仕事
食後すぐに力仕事をしてはいけない。急いで歩いてはいけない。また移動するのもよくない。
巻第三 飲食 上 終わり
巻第四 飲食 下
1 倹約と養生
蘇東坡(蘇軾(ソショク)の別名、中国の昔の人)はいう。「早晩(朝夕)の飲食、一爵一肉(一ぱいの酒と一きれの肉)に過ぎず。尊客あれば之を三にす。へらすべくして、ますべからず。我をよぶ者あれば、是を以てつぐ。一に曰く、分を案じて以て福を養なう。二に曰く、胃を寛くして以て気を養なう。三に曰く、費をはぶきて以て財を養なう」と。これは、倹約と養生のふたつのためになる言葉である。役立てよう。内容は少し難しいけど、朝夕の食事は質素にして、客がきたら少し豪華にし、毎日を幸福に暮らし?、胃腸を大事にし、浪費することなく財をためる。という、内容だと思う。
2 一品の副食
朝夕の食事には、副食は一品でよい。味噌の類か、塩辛か、あるいは漬物を一品付け加えてもよい。吸物は、裕福なひとであっても一つでよい。客に二つ用いるのは、もし一つ目が気に入らないとき、二つ目をすすめるためである。普段は、一つでよい。
中国のえらい人たちも、たとえ裕福な人であっても、副食は一つであった。
3 野菜の煮かた
松茸、筍(たぶん竹の子のこと。)、豆腐などの味のすぐれたものは、それらただ一種類だけを煮て食べるのがよい。ほかのものと一緒に煮ると味が悪くなる。味が悪いと身体の養分にならない。
4 餠とだんごの食べ方
餅や団子はできたてであっても、煮るか焼くかしないと消化に悪い。蒸したものより煮たものの方がやわらかく消化しやすい。餅は数日たってから焼いたり煮たりして食べるのがよい。
5 朝食と夕食
朝食が油っこいものであったら、夕食はあっさりしたものにしよう。夕食が味のこいものであったら、次の日の朝食は少なめにするのがよい。
6 新鮮な食物
いろいろな食物があるが、すべて新鮮なうちに食べるのがよい。新鮮でないものには、体によくない。また煮すごして、香りの悪くなったものもよくない。
7 食物の陰と陽と
どんな食物も、時間がたつと悪くなる。悪くなった食物は食べてはいけない。穀物、肉類、魚、鳥の肉、野菜、すべて時間がたつとよくない。それらのものを食べると、胃腸を悪くする。水も汲んだ後、時間を置くとよくない。でも、天日にほして色が変わったものや、塩づけにしたものはそうでもない。しかし、乾物であっても気の抜けたものはいけない。
8 陰の食物
夏、暑いときに蓋をしたところに長く置いておいたものは、熱気のために悪くなる。そのようなものを食べてはいけない。冬、霜にうたれた菜や軒の下に生えた菜などは食べてはいけない。
9 瓜を食べるとき
瓜類は、涼しい風が吹くときや秋になり冷えた時期になったら食べてはいけない。夏の暑い盛りに食べるのがよい。
10 火毒
火で焼いたもちや肉は、熱湯に少しひたしたあとで食べるのがよい。そうしないと、唾液が乾いてしまう。また慢性の咽の病気によくなる。
11 茄子の性
茄子は、生で食べるといけない。煮たものでも、下痢や熱の高い病気のときなどは、とくに食べてはいけない。そのほかの病気のときは、皮をむいて切り、米のとぎ汁にひたして、一晩か半日たってやわらかく煮て食べれば、害はない。
葛粉は、水でこねてすじ状に切って、水で煮て、さらに味噌汁に鰹の粉末を加えて再び煮て食べる。下痢を止めて異を助ける。保養になる。
12 大根などの調理
胃の弱いひとは、大根、人参、芋、山芋、牛蒡(ごぼう)などを薄く切ってよく煮て食べるがよい。大きくしかも厚く切ったものや、十分に煮ていないものはみな胃腸を悪くする。一度うす味噌かうす醤油で煮て、その汁にひたして半日か一晩おいて、ふたたび前の汁で煮ると、大きく切ったものでも害がなく味もよい。
鶏肉や猪の肉などもこのようにして煮るのがよい。
13 大根の効用
大根は野菜の中でもっとも上等なものである。つねに食べるのがよい。葉っぱの堅いところをすててやわらかな葉と根とを味噌でよく煮て食べる。そうすると、脾臓(血液の生成、浄化作用をする臓器)をたすけて痰を取り去り、血液の循環をよくする。大根でも生のまま食べるのはいけない。が、食物のとどこおりのあるときは少し食べても害はない。
14 葉の調理
菜は京都では、はたけ菜、水菜の類であっても田舎ではそれを京菜という。いわゆる、かぶの仲間である。味は良いが体にはよくない。根は9月か10月に食べるのはかまわない。それ以外に食べるのは、体の弱った人には向かない。
15 果物の食べ方
いろんな果物や干し菓子などは、火に通して食べれば害はない。味もよい。まくわうり(メロンの一種、干せば嘔吐剤・下剤になる)は、種をとって蒸して食べる。味もよく胃にも害はない。熟した柿も甘柿も、皮とともに熱湯で温めて食べるのがよい。干し柿は、火にあぶって食べればよい。どれも胃腸の悪いひとにも、害はない。なしは、蒸して食べると多少よいが、胃腸の悪い人は食べてはいけない。
16 食べてよいものわるいもの
病状によって食べていいものと悪いものがある。だからよく考えて食事をしないといけない。また女性が妊娠しているときは、食べてはいけないものが多いので気をつけなくてはいけない。
17 豆腐の食べ方
豆腐は毒気がある。でも新しい豆腐を煮て味がよいものは、それに生大根のおろしを加えて食べるのなら害はない。湯豆腐のことだろう。
18 食事のとり方
前に食べたものが消化しないうちに次の食事をしてはいけない。
19 薬の服用と味つけ
薬を飲むときは、あまいもの、油っこいもの、獣肉、果物、もち、だんご、生もの、冷えたものなどは食べてはいけない。また、大食すると薬の効力が少なくなる。酒はほんの少しにひかること。補薬(衰えた精力を補うために用いる薬)を飲むときは、これらをさけるのがよい。とにかく薬を飲むときは、味の薄いものを食べ薬の効果をよくすることだ。
20 大根・山芋などの食べ方
大根、菜、山芋、芋、くわい(オモダカの球茎。)、人参、かぼちゃ、白ねぎなどの甘い菜は、大きく切って煮て食べると、体の調子が悪くなり腹痛を起こすことがある。薄く切ってたべるのがよい。または、辛いものを加えるか酢を少し加えるのもよい。再度、煮るのもよい。このようなものは、一時に多くを食べてはいけない。生の魚、脂ぎった肉、味の濃いものなども、同じである。
21 生姜と眼病
生姜を、8月、9月ごろに食べると、よく年の春に眼病になるという。(本当だろうか?)
22 温かいものを食べる
豆腐、こんにゃく、山芋、くわい、蓮根などを醤油で煮たものは、すでに冷えて温かでないものは食べてはいけない。
23 腹鳴りと朝食
夜明けのころ、腹がごろごろ鳴って、食物が消化しないで不快なときは朝食を減らすのがよい。肉や果物などは特に食べないほうがよい。こんなときは酒をのんではいけない。
24 飲酒のあと
飲酒の後、酒が残っているときは、もち、だんご、米麦など、干菓子、果物、甘酒、にごり酒、脂っこいもの、甘いもの、消化しにくいものなどは食べてはいけない。酒が体に回ってよくないからである。
25 鳥獣の肉と調理
鶏肉の堅い肉は、前日から醤油や味噌汁で煮て、その汁をもって翌日ふたたび煮るとかりに大切りの肉でもやわらかくなって味もよい。そして消化もよい。大根も同じである。
26 餠の薬用
餅を薄切りにして、山椒など加え味噌で長く煮たものは、脾臓の弱い人や下血(血便)をする病人にはよい。大切りにしたものはよくない。
27 果実の食べごろ
果実は熟したもの以外は食べてはいけない。果実のなかには毒のあるものもある。山椒の口を閉じているものは毒がある。
28 怒りと食事
食事の前後に怒ってはいけない。また心配事をしたまま、または食後のあとに心配をしてはいけない。
29 消化と食事
いくら体にあった食物でも、それが消化しないうちに続けて食べてはいけない。
30 夜食の分量
長い冬、寒さを防ごうと夜食をとろうと思ったなら、夕食時、食事の量を減らしておく。夜に招待を受けたときなどは、夕食を減らしておく。そうすれば、身体にさほど害は少ない。食欲にまかせて腹いっぱい食事をしてはいけない。
31 湯茶の多飲をさける
塩分の少ない食事をしていると、喉がかわかない。そうすると内臓に湿気がたまらず、胃が元気になる。
32 中国・朝鮮の人と日本人
中国や朝鮮の人は胃腸が強いので、ご飯や肉類などを多く食べても害はならない。しかし日本人はそれらの人よりも身体が弱いので、穀物や肉類を多く食べると害になる。
33 空腹と果物
空腹時に生の果物を食べてはいけない。また菓子なども多く食べてはいけない。胃腸に負担がかかるからである。
34 労働と多食
労働してひどく疲れた直後、食事をとると眠たくなる。食後の睡眠は体によくないので、ひどく疲れた直後は食事をしてはいけない。疲労がとれてから食事にすべきである。
35 多飲、多食の患い
色欲は断つことができるが、飲食は絶つことはできない。それゆえ食欲に負け、大食することが多い。
36 病人の望みをかなえる法
病人がとても欲しがっても、食べて害になるものや冷水などは与えてはいけない。でも、飲み込まないで味だけを味わわせるのならかまわない。穀物、肉、吸物、酒などは味を楽しむものであり、飲み込まなくてもよいものである。冷水なども口のなかに留めておくなら、口中の熱を取り、歯茎を強くする。でも、飲み込まずに我慢できる人にしか、この方法はよくないだろう。
37 多食してはいけない食物
多く食べてはいけない食物は、次のようなものである。餠の類、だんご、ちまき、干菓子、ひやむぎ、麺類、まんじゅう、そば、砂糖、甘酒、焼酎、小豆、酢、醤油、鮒、どじょう、はまぐり、うなぎ、えび、たこ、いか、さば、ぶり、塩から、鯨、生大根、人参、山芋、菘根(青菜か蕪の根)、かぶら、脂肪の多いもの、味の濃いもの。
38 老人・虚弱者の食べてはいけないもの
老人や虚弱なひとが食べてはいけない食物。それは次のとうりである。いっさいの冷たい生もの、堅いもの、ねばっこいもの、脂肪の多いもの、ひやむぎ、冷たくて堅い餠、だんご、ちまき、冷えたまんじゅう、その皮、堅い飯、生の味噌、甘酒のつくりのよくないものと冷たい甘酒、鯨、いわし、しび(まぐろ)、かます、いろいろな果物などである。
39 食べてはいけないもの
誰でも食べてはいけないもの。それは生の冷たいもの、堅いもの、熟していないもの、ねばっこいもの、古くなって味の変化したもの、製法が疑問なるもの、塩からいもの、酢の多すぎたもの、煮たての味を失ったもの、臭いのわるいもの、色のわるいもの、味の変化したもの、魚肉の古いもの、肉の腐敗したもの、豆腐の古いもの、味のわるいものや煮たての味を失ったもの、冷たいもの、素麺に油のはいったもの、すべての半煮えのもの、灰汁の混じっている酒、酸味のある酒、時期でなく熟していないもの、すでに時期のすぎたものなどは食べてはいけない。夏期に雉肉を食べてはいけない。魚や鳥の皮の堅いもの、脂肪の多いもの、ひどく生臭いもの、魚の目が両方ちがうもの、腹の下が赤いもの、自然死した鳥で足が伸びないもの、毒矢にあたって死んだ獣、毒を食べて死んだ鳥、肉の干したもの、雨だれ水にぬれたもの、米びつの中に入れておいた肉、肉汁を器物に入れて気をとじ込めたものなどすべて毒がある。肉、干した肉、塩づけの肉、夏をすぎて臭と味のわるい肉などみな食べてはいけない。
40 食医の官
古代、中国に食医という官があった。それは食事によってすべての病を治すという。食事とは養生の基本である。薬はやむえないときにだけ使うものである。
41 同食の禁
いわゆる食い合わせてわるいものが多いので、ここに記して注意したい。
豚肉に、生姜・そば・胡すい(コエンドロ【coentro ポルトガル】セリ科の一年草。南ヨーロッパ原産の香味料・薬用植物。高さ三○〜六○センチメートル。茎は細く直立、茎・葉ともに特異な香気があり、カレー粉・クッキーなどに用いる。葉は細裂した羽状複葉で、互生。夏、小白花を複散形花序につける。果実は小円形で、生薬の胡すい実(コスイジツ)として香味料または健胃・去痰(キヨタン)薬。コリアンダー。漢名、胡すい。)・炊豆・梅・牛肉・鹿の肉・すっぽん・鶴・鶉などがわるい。
牛肉に、黍(きび)・にら・生姜・栗などかいけない。
兎肉に、生姜・橘の皮・芥子(カラシ又は、がいし、カラシナの種子。)・鶏・鹿・かわうそ(日本にまだいるだろうか?)などがいけない。
鹿に、生の菜・鶏・雉・蝦(えび)などがいけない。
鶏肉と卵に、芥子・にんにく・生葱・糯米(もちごめ)・すもも・魚汁・鯉・兎・かわう
そ・すっぽん・雉などがいけない。
雉肉に、そば・きくらげ・胡桃・鮒・なまずなどがいけない。
野鴨に、胡桃・きくらげがいけない。
鴨の卵に、あんず・亀の肉がわるく、
雀肉にはあんず・あじ味噌がわるい。
鮒に、芥子・にら・飴・鹿・せり・雛・雉などがいけない。
魚鮓に、麦のあじ味噌・にんにく・緑豆(マメ科の植物)などがわるく、
すっぽんの肉にはひゆ菜(学名アマランサス、インド原産の一年草)・芥菜・桃・鴨肉などがわるい。
蟹に、柿・橘・なつめがわるく、
すももには蜜がわるい。
橙や橘にはかわうそ、
なつめには葱、
枇杷(ビワ)には熱い麺類、
楊梅(ヤマモモ)には生葱、
銀杏に鰻、
瓜類に油餠、
黍や米には蜜がいけない。
緑豆に榧(かや)の実を食べ合わせると死ぬ。
ひゆにわらび、
乾筍(ほしたタケノコ)に砂糖、
紫蘇(しそ)の茎葉と鯉、
草石蚕(ちょうろぎ、野菜の一種)に魚類、
なます(魚貝や獣などの生肉を細かく切ったもの。薄く細く切った魚肉を酢に浸した食品。大根・人参を細かく刻み、三杯酢・胡麻酢・味噌酢などであえた食品。などのこと)に瓜・冷水、菜瓜になますなどはいけない。
また酢につけた肉に髪が入っているのを知らずに食べると害になる。
麦のあじ味噌と蜂蜜とを同時に食べてはいけない。
越瓜(南越にとれた瓜。皮が白い)と酢づけの肉。
酒のあとに茶を飲んではいけない。腎をそこねるからである。酒の後に、芥子や辛いものを食べると筋肉や骨を悪くする。茶と榧とを一緒に食べれば身体がだるくなる。
日本の社会では、わらびの粉を餠にして、緑豆をあんにして食べるとひとを殺すという。またこのしろ(たなごに似た魚)を木棉子の火(木綿を燃やした火のことか?)で焼いて食べるとひとを殺すし、胡椒と沙菰米(「いさごまい」と読むのかな?判らない)を同時に食べるとひとを殺すともいう。
また胡椒と桃・すもも・楊梅とを同食してはならない。
またいう。松茸を米びつの中に入れておいたものを食べてはならない、と。
また南瓜をなますに合わせて食してはいけないともいう。
食べ合わせで、いけないものは結構あるものだ。
42 薬と食物
黄ぎ(マメ科の植物、強壮剤)を服用した人は酒を多く飲んではいけない。
甘草(同じくマメ科の植物、鎮咳、解毒剤)を飲んだ人は菘菜を食べてはいけない。
地黄(薬草)を服用するには、大根とにんにくと葱(ねぎ)の三つの白いものをさけること。菘は食べてもよい。
荊芥(シンケイ科の植物、発汗剤)を飲むときには生の魚をさける。
土茯苓(ユリ科の植物、利尿剤)を飲むには茶はよくない。
これらのことは守らないといけいない。結果がわかっているので、理由が分からなくてもこのことは守らないといけないのである。
43 肥料と食物
すべての食物の中で、一番汚れているものは、畑で栽培された菜である。肥料として使っている、人糞(もう、使っていないところが多いと思うけど)で汚れているのだ。一夜、もしくは一日、水を張った容器にいれておき、よく洗ってから食べるのがよい。
自然にできた菜や、瓜、茄子、ゆうがお、冬瓜などは汚れてはいない。
飲酒
44 酒は天の美禄
お酒は、天から与えられた褒美である。ほどよく飲めば、陽気になり消化を助け、心配事から開放され、やる気を出す。しかし、多く飲めば害になる。たとえば火や水は人の生活になくてはならないものであるが、同時に火災や水害ももたらす。そういうものである。
酒を多く飲むと寿命も縮めてしまい、せっかくの天からの褒美も台無しである。
45 多飲の戒め
お酒というのは、人によって多く飲める人と飲めない人がいる。少ない量で気持ちよくなる人は、多く飲む人より酒代が少なくてよく、経済的である。日々我慢をせず、多く飲むことが習慣になってしまうと、身を崩してしまう。慎まなければいけない。
46 食後の酒
お酒は、朝夕の食後に飲むならば害はない。その間の空腹時に飲むと害になる。朝の空腹時に飲むのは、もっともよくない。
47 酒の温度
お酒は夏冬に関係なく、冷酒や熱すぎるものはいけない。ほどよく温かいのがいい。冷酒は胃腸を悪くし、飲みすぎることが多い。熱いお酒は、気が高ぶりすぎる。
48 温めなおした酒
酒を温めすぎると味を失う。温めたものが冷めて、もう一度温めなおしたものは胃腸によくない。飲んではいけない。
49 酒のすすめ方
酒をすすめるとき、その人の飲める量を知らないときは、少しずつすすめる。あまり多くすすめると、飲む人の身体に害を与える。酒をすすめられると、普通より多く飲む人がいるので、飲む量は飲む人の判断にまかせるのがいい。
酒をすすめられる人も、いたずらに辞退するのではなく、程よく酔って、ともに楽しむのがもっともよいことである。
50 濁酒と醴酒と
市販のお酒に灰汁を入れたものには、毒がある。酸味のあるお酒も飲んではいけない。長い間保存した酒で、味が変わったものにも毒がある。
濁り酒は濃いものは、胃腸に長く留まるので飲んではいけない。混じりけのない芳醇な酒を朝夕の食後に少し飲むのがいい。甘酒は清潔に造ったものならば、すこし熱くして飲むと体を温める。製法の悪いものや冷えたものは飲んではいけない。
51 酒と命
長寿な人たちは、ほとんど酒をのまない。お酒を多く飲む人が長寿なのはめずらしい。酒はほろ酔い程度に飲めば、長寿の薬となるだろう。
52 酒と甘味
酒を飲むときは甘いものを食べてはいけない。飲んだ後、辛いものを食べてはいけない。人の筋骨がゆるくなる。酒を飲んだ後、焼酎を飲んではいけない。また同時に両方を飲んではいけない。
53 焼酎の飲み方
焼酎は毒があるから多く飲んではいけない。火をつけて燃えるのを見ても、熱を多く持っている。夏ならば、肌が多く露出しているので熱を逃がしやすいから、少しなら飲んでもかまわない。
焼酎を元につくった薬酒は多く飲んではいけない。鹿児島のあわもり、佐賀の火の酒は、焼酎より濃い。外国の酒も飲んではいけない。酒の性格がわからないからである。焼酎を飲んだあとは、熱いもの辛いものなどを食べてはいけない。冬に焼酎を飲んで、体を温めようとは思ってはいけない。焼酎を飲みすぎたときは、緑豆の粉、砂糖、葛粉、塩、紫雪などすべて冷水で飲むとよい。温かい湯で飲んではいけない。
飲茶 ならびに煙草
54 薬の効用
かなり昔(大化改新または、大和朝廷の時代より以前)には、日本には茶というものは存在しなかった。中世(江戸時代より前くらい、と思う。)になり、中国から渡ってきた。そののちに、人々が味わい日用欠くことができない大切なものとなった。茶は、精神を落ちつかせ眠気をさますものである。
昔の中国の医者たちは、人の体から油を抜き出すとして茶は良くないと言っていた。でも、今では朝から晩まで茶を飲んでいるが、身体に悪い影響はないようだ。しかし、だからといって一度にたくさんの茶を飲むのはいけない。
抹茶は、茶の成分が強い。煎茶は、茶の葉を煎ったり煮たりするのでマイルドだ。日頃は煎茶を飲むのがいい。
食事のあとに、熱い茶を飲み、消化を助け渇きを癒すのがいい。茶に塩を入れてはいけない。腎臓を悪くする。
空腹のときは、茶を飲んではいけない。胃腸を悪くする。
濃い茶を多く飲んではいけない。気持ちを沈ませるからだ。
中国の茶は、煮ないで作るので成分が強い。
虚弱な人や病弱の人は、新茶を飲んではいけない。眼病、情緒不安、下血、嘔吐、下痢などが起こりやすいからだ。新茶は正月頃から飲むのがよい。人によってはその年の9月か10月ころから飲んでもかまわない。
新茶の毒に当たったら、香蘇散、不換金、正気散(感冒の薬)などを飲むといい。梅干し、甘草(マメ科の多年草、鎮痛・鎮咳剤になる)、砂糖、黒豆、生姜などを用いてもいい。
55 茶の冷と酒の温
酒と茶とは、性格が反対である。酒を飲めば気が立ち、茶は気を落ち着かせる。酒に酔えば眠くなるし、茶を飲めば眠気はなくなる。
56 湯茶は多く飲むな
吸物、湯茶とも多く飲んではいけない。胃腸に負担がかかるからである。多く飲まなかったら、胃腸に元気が生まれ顔色がよくなり美人になる。
57 茶と水と
薬と茶を煎じる水は、よいものを選ばないといけない。清らかで味の甘いものがいい。(軟水のほうがいい。)雨の中で清潔な器を使って雨水を集めるのもいい。地下から汲んだものよりいい。しかし、雨水は長時間その良さを保つことができない。もっともいいのは雪水である。
58 茶の煎じ方
茶を煎じる方法は、弱い火で炒って強い火で煎じる。煎じるとき沸騰した湯に冷水をさすと、茶の味がよくなる。湯が沸いたとき苡(じゅつだま)の生葉を加えると、味も香りもよくなり、茶の性質もよくなる。
59 奈良茶粥
大和の国(関西のことだろう)では、みな茶漬けを食べている。小豆、ささげ、そら豆、緑豆、陣皮(みかんの皮)、栗子、零余子(ヤマノイモの葉のつけ根に生ずる小さな固まり、養分の固まり)などを、使用している。茶漬けは食欲を増やし、胸のとおりをよくする。
60 煙草の害
たばこは天正(1573年)・慶長(1596年)年間の近年になって、他国から渡ってきた。「淡婆姑」は日本語ではない。
煙草は、毒である。煙を吸い込むと目が回り倒れることもある。習慣になれば害も少なくなり少しは益もあるといわれるが、害のほうが多い。病気になったり、火事になったりと心配ごとが増える。習慣になると、煙草をやめれなくなり家計にも負担をかけることになる。
慎色欲
61 色欲の自制
若いときは、性欲が強く自制が必要だ。自制をしないと、腎を悪くし精気をなくし短命になる。食欲と性欲は、人の持っている欲望のもっとも強いものである。自制するのは難しいが、しないといけない。
自制しないで減った精気を取り戻すのに、薬や栄養剤に頼るのはよくない。
62 交接の回数と年齢
男女の交接の周期は、20歳で4日、30歳で8日、40歳で16日、50歳で20日に一回である。60歳以上のものは、してはいけない。体力がある老人ならば一月に一回。
また人それぞれ体調や体力などがあるから、すべてこれが正解ではない。
また20歳までのものについては身体が成長していないので、回数が多いと身体に悪い影響がある。
63 情欲は若いときに慎む
若くて盛んな人は、性欲を抑えて過失のないようにしないといけない。また、性交をよくするために、熱薬興奮剤などを用いてはいけない。
64 二十歳前後
20歳までは、性交を慎まないといけない。
65 房中補益の説
40歳を越えても、性欲の強い人がいる。このような人は、無理に性欲を抑えるとかえって害になる。かといって、慎みがなければ害になる。このような場合は、精気をもらさず交接するのがよい。この方法は害がない。
66 腎の働きと情欲
性欲があるのに性交を行わないと、体に精気がたまりよくない。そのようなときは、入浴して下腹部を温め、体の気を循環させれば問題ない。
67 房室での禁止事項
房室での禁止すべきことは多い。天変地異の災いは気をつけること。日蝕、月蝕、雷電、大風、大雨、大暑、大寒、虹げい(虹)、地震などのときは房事をしないのがよい。場所については、太陽の下、月・星の下、神社の前、先祖の墓前、聖人の像の前では、してはいけない。身体については、病気中、病後、心配ごとがあるとき、疲労したとき、空腹時、心が平静でないときは、いけない。また、冬至の5日前から、10日後まではいけない。女性の生理が終わっていないときも、いけない。
胎教というものがあるが、これは房室の禁戒のあとのことである。妊娠するまえの決まり事も、守らないといけない。
68 房事と尿意
小便を我慢して、房事をしてはいけない。竜脳(樟脳に似た芳香があり、香料の調合原料或いは薫香・口腔清涼剤・防虫剤に用いる。)、麝香(香料の一種、薬の材料になる)などの薬を用いて、房室に入ってはいけない。
69 懐妊と夫婦関係
「婦人懐胎の後、交合して欲火を動かすべからず」と、中国の医学書「医学入門」に書いてある。
70 腎と脾と
腎は五臓のもと、脾は滋養の源である。腎と脾は、体の中心である。草木の根のようなものである。大切にしないといけない。腎と脾が丈夫なら、身体も健康である。
第四巻終
巻第五
五官
1 心は身体の主君
心は、体の主君にたとえられる。思うことを統率するものである。耳(聴覚)・目(視覚)・口(味覚)・鼻(嗅覚)・体(皮膚感覚、触・圧・温・冷・痛を感じる。)は、五官といい、心の従者である。
五官の情報を心で正しく理解するのが心である。
正しく考え理解する心は、常に安楽にして苦しませてはいけない。正しく理解できない心をもったら、身体は不幸である。暴君のいる国が不幸であるのと同じことである。
2 部屋は南向き
いつもいる部屋は、南向きで戸に近く明るいところがよい。陰鬱で薄暗い部屋に、つねにいてはいけない。気が滅入るからである。また、明るすぎる部屋も気分が落ち着かない。適度な明るさの部屋がいい。
3 東枕で寝る
寝るときは必ず東枕にする。北枕や、主君や父が近くにいるときは、そちらに足を向け寝てはいけない。
4 正坐
座るときは正座をする。楽にするときは、あぐらにしてもいい。膝をかがめているのはよくない。たまに椅子にすわるのもよい。
5 居室と家具は質素
いつもいる部屋の家具は、飾り気がなく質素で清潔なものがよい。居間は寒風を防いで、気持ちよく居られるようにする。家具は用がすめばよいのである。華美を好むと、際限なく奢りを生み、心を苦しめる。養生の道に外れてしまう。
すきま風があるときは、それを防がないといけない。寝室は、小さなすきま風も防がないといけない。病気の元である。
6 寝るときの姿勢
夜寝るときは、必ず脇を下にして体を横にして寝ること。仰向けはいけない。気が悪くなりうなされることがある。胸の上に手をおいてはいけない。悪夢をみることがあるからだ。
7 眠入るまでの軽い運動
夜、寝るときに寝入るまでは両足を伸ばしておくといい。寝入る時は、両足を曲げて横向きになり寝るのがいい。一晩に5度まで寝返りをうつのがいい。(できるんだろうか?)
胸や腹の調子が悪いときは、足を伸ばし胸部や腹部を手でなでる。気持ちが浮ついているときは、足の親指を盛んに動かすと気持ちがよくなる。人によっては、こういう方法であくびがでることがあるが、大きなあくびはしてはいけない。
眠りにつくとき口を下に向けていると、よだれがでるのでよくない。仰向けに寝るとうなされるのでよくない。両手の親指を曲げてこれをほかの四指で握って寝ると胸の上に手がいかないので、よい。これが習慣になれば、寝ていても指は開かなくなる。
寝る前は、痰を吐き出しておく。夜、寝る前に痰がでやすい食事をしてはいけない。老人はとくに、痰を止める薬を飲んでから寝るのがいい。
8 口を閉じて寝る
寝るときは、寝間着で顔をおおってはいけない。気持ちがうわついて、のぼせる。寝るときは、部屋を明るくしてはいけない。安静な気持ちで寝らねない。もし、暗いのがいやならば、薄暗い部屋にする。寝るときは口をよく閉じること。開けて寝れば、歯によくない。
9 按摩と指圧
一日に一回は、全身に按摩や指圧を受けるのがいい。
頭の頂上中心部、頭のまわり、両眉の外側、眉じり、鼻柱のわき、耳の内側、耳の後ろの順に指圧するのがいい。耳の後ろから、首筋の左右をもむ。左側を右手で、右側を左手でもむ。
次に、両肩、肘の関節、腕、手の十指をひねらせる。背中を押さえてたたかせる。腰や腎臓のある部分をなでさせる。胸、両乳、腹部を何回もなでさせる。
次に、両股、両膝、脛の表裏(膝の下の部分)、足のくるぶし、足の甲、足の十指、足の心(足の裏側の土踏まずの中心)などを両手でなで、ひねらせる。
これらは、自分で行うのもよい。
10 導引
心は常に平静で、身体は常に動いているのがよい。一日中、座っていつと病気にかかりやすい。長い時間立ったり、長時間歩いたりするよりも、長時間、寝ていたり座っているほうが大いに害になる。
11 導引の方法
導引(道家で行う一種の治療・養生法)を毎日実行すれば、血行よく、消化を助け、気持ちを和らげる。朝、起きる前に、両足を伸ばし体の濁りを出す。起きて座り、頭を仰向かせて、両手を組み前方に付きだし上げる。歯を何度も噛み合わせ、左右の手をもって首筋を交互に押す。両肩を上げ、首を縮め、目をふさいで急に肩を下げる動作を三度ばかり繰り返す。
それから、顔を両手で何回もなでおろす。目がしらから、目じりに何回もなでる。鼻を両手の中指で六、七度なでる。耳たぶを両手で挟んで六、七度なでおろす。両手の中指を両耳に入れて、何回か耳孔をふさいだり開いたりする。両手を組んで、左へ引くときは頭を右に回し、右へ引くときは左に回す。これを三回。
それから、手の甲で左右の腰の上、胸のあばら骨のあたりを筋交いに10回ほどなで下ろす。両手で腰を指圧する。両手で腰の上下を何度もなで下ろす。こうすると、神経のはたらきがよくなる。両手で、臀部を軽く10回ほど打つ。腿をなで下ろす。両手を組んで、膝頭の下を抱え足を前に踏み出すようにし、左右の手を自分の方に引きつける。両足をもこのように何度も繰り返すがよい。
左右の手をもって両方のふくらはぎの表裏を数回なで下ろす。片足の五指を片手でにぎり、足の心(足の裏側の土踏まずの中心)を左手で右足の方を右手で左足の方を10回ほどなでる。両足の親指を強く引きながら、ほかの指をひねる。これを毎日続けるといい。
従者や、子供たちに教えて、ふくらはぎをなでさせたり、足心(足の裏側の土踏まずの中心)をこすらせるのもいい。足の指を引っ張らせるのもいい。
朝晩こうすると、気分が落ち着き足の痛みも治る。長く歩いた後は、足心(足の裏側の土踏まずの中心)をもむのがよい。
12 膝から下の健康法
ふくらはぎの表と裏とを、ひとの手を借りて何度もなでおろさせ、さらに足の甲をなで、その後は足の裏を多くなでて、足の十指を引っ張れせると、血行がよくなり気持ちを落ち着かせる。自分でするのもよい。
13 導引・按摩をしてはいけないとき
気持ちの落ち着いているときや、冬の時期は導引やあんまをしてはいけない。静かに歩行運動をするのなら、かまわない。食後にするのがいい。土踏まずの中央をなでるのもいい。
14 髪をすき歯をたたく
髪をすくのは多い方がいい。気持ちを落ち着かせるからである。櫛の歯で、刺激が強いものは髪の毛が抜けやすくなるのでよくない。
歯は、何度もかちかちと噛み合わせるのがよい。歯を丈夫にし虫歯にならない。両手をすりあわせて熱を持たせ、その手で両目に当てて眼を暖めるのもいい。視力がよくなり眼病予防になる。髪の生え際から額と顔とを上下になで下ろすのもよい。
両手を顔に当てると、気持ちを落ち着かせ顔色がよくなる。左右の中指で鼻の両側を何度もなでて、両耳の付け根をよくなでるのがいい。
15 早起きの効
午前三時〜五時に起きて座り、足の五指を片方の手で握り、他方の手で土踏まずの中心をなでて熱くする。熱くなれば、両手で両足の指を動かすといい。
この方法は、従者にさせるのもよい。
毎日この方法をすると、足の病気にかからず、のぼせなくなり、脚を丈夫にして、立てなかった足をよくする。
16 腎の部分をなでる
寝るときに、子供に自分の手をこすらせて熱くさせて、その手を臀部に当てなでさせる。それから土踏まずの中心を十分になでさせる。自分でしてもよい。臀部の下部や上部を静かにたたかせるのもよい。
17 寝る前にすること
寝る前に、髪をくしでよくすき、湯で足を洗うのがよい。血行をよくし快適になる。寝る前に、熱い茶に塩を入れてうがいするのもよい。口の中を清潔にし歯を丈夫にする。このときに使用する茶は番茶で十分である。
18 目をつむって落ちつく
用がないときは、目を開けないほうがいい。
19 炬燵の用法
寝るときに暖房を使って体を温めるのはよくない。暖めすぎると、気がゆるみ、体がなまり、のぼせて、目を悪くする。中年以上の人は、弱い暖房で寒さを防ぐのならよい。でも、足を投げ出して温めるのはよくない。若い人は、暖房を使って寝てはいけない。
若い人は、寒さの厳しいときに暖房で体を温めてから、寝るのがいい。暖めすぎるのは健康上よくない。
20 厚着はよくない
厚着をして、暖房で体を温めすぎ、熱い湯の中に長く入浴をし、熱いものを食べすぎると、体の熱が外に逃げ出すほど、のぼせてしまう。これは、健康のとても悪いので気をつけること。
21 長時間坐る法
長い時間、人の前に座っていると、足がしびれることがある。そのときは、自分の足の左右の親指を何回も動かし、屈伸するとよい。
日頃から、両足の親指を屈伸させて、厳しく訓練しておけば、こむらがえりになる不安もなくなる。かりにこむらがえりをしても、足の親指を何度も動かすことにより治すことができる。気が立ちやすい人も、これをすれば落ち着く。
22 頭と火炉
頭を暖房器具の近くにおいては、いけない。のぼせてしまうからである。
23 風寒を防ぐ
寒い風が吹いていても薄着でいれば、身体は緊張し寒さを防ぐ。
24 めがねの使用
眼鏡は40歳を越えたら早くつけるのがいい。視力を保護する。眼鏡は国産の水晶で作ったものがいい。拭くときは絹製または毛製の布がいい。両指で挟んで拭くこと。ガラス製の眼鏡は割れやすいので水晶のほうがいい。ガラス製の眼鏡を拭くときは、絹製の布で拭くといい。
25 朝の衛生
毎朝、まず熱い湯で目を洗い温める。鼻の中をきれいにする。ぬるま湯で口中をすすいで前日からの汚れを出す。干した塩を使い上下の歯と歯茎を磨き、熱湯を使い十分すすぐ。すすいでいるときに、ぬるま湯で洗った布で顔と手を洗う。顔と手を洗い終えたら、すすいでいたものを桶にだす。それを濾過して塩湯で目を洗う。(衛生上、いいのだろうか?新たに作った塩湯の方がいいような気がする。)その塩湯で左右の目を15回くらい洗う。
そのあと、別の塩湯で目と口を洗い直し、口をすすぐ。毎朝、これをしておけば歯は丈夫で老年になっても歯は抜けない。視力も衰えず、老いても眼病にかからず夜でも細かい文字を読んだり書いたりすることができる。
貝原 益軒も毎日これを実行しているので、83歳になっても細い字を読み書きできるし、歯も一本も抜けていない。そして爪楊枝も使うこともない。(なんか自慢みたい)
26 歯の養生
歯の病は胃からくる。毎日、歯をかちかちと36回くらい噛み合わせると歯が安定して虫歯にならす、歯の病気にもならない。
27 歯を大切に
若いときに、歯が丈夫だといって堅いものを食べてはいけない。梅の種やヤマモモの皮などを歯で噛み砕いてはいけない。歯が抜けやすくなる。細字をたくさん書くと、目と歯が悪くなる。
28 楊子と歯
爪楊枝で歯の奥までさしてはいけない。歯茎を痛めるからである。
29 季節と朝起き
寒い時期はおそく起き、暑い時期は早く起きるのがいい。暑い時期だからといって、風に当たって寝てはいけない。また、扇などで風を受けてもいけない。
30 熱湯と歯
熱い湯で口をゆすいではいけない。歯を悪くする。
31 食後の横臥はわるい
食後は、手で顔をすり腹をなで、唾を飲みこむこと。軽い散歩をする。食後、横になると、病気の元になる。飲食して横になれば、心の病になる。
32 食後の衛生
食後は寝てはいけない。軽い運動と散歩をし、締め付けのない服装をしてくつろぎ、腰を伸ばして座り、両手でお腹、お腹の横を縦横になでる。両手で腰の横を10回ほど押さえる。そうすれば、消化を助け気を落ち着かせることができる。
33 七穴をとじておく
目、鼻、口は顔面にある五つの穴で、気が出入りするところである。それだけに気がもれやすい。多く気をもらしてはいけない。尿の出るところとは、精気が出るところである。過度にもらしてはいけない。肛門は便が出るところで、定期的に通事があるのがよく、不規則な下痢はいけない。これらの七つの穴は、かたく閉じておいて気を多くの気をもらさないようにしないといけない。耳は気の出入りがないが、長く音を聞いていると精神が疲れる。
34 火桶の用法
寝具の中に、暖をとるための火桶がある。京都の土製のものがいい。それを寝る前に寝具の中に入れておいて足を温める。のぼせやすい人は、火桶を早く寝具から出しておくといい。足が温まったら、火桶は外に足で出す。
翌朝、起きるときは再び足を延ばして火桶で温めるといい。懐炉のようなもので腰の下を温めると、早く温まる。急用なときは用意しておくといい。そうすれば、消化を助ける。これを知っている人は少ない。
二便
35 空腹と満腹のとき
空腹の時は、しゃがんで小便をし、満腹時は立って用をたすのがいい。(男だけだろうな)
36 二便の排泄
大小便は早くすませるのがいい。我慢はよくない。
小便を我慢すると、膀胱の病気になることがある。尿が出にくくなったり、回数が増えたりする病気になる。
大便を幾度も我慢していると、痔になる。大便をするときは、できるだけ力むことがないようにする。力むと、のぼせて目が悪くなり心臓にも悪い。自然にするのが一番いい。もし力むことがあれば、薬の服用して唾液を生じ胃腸を整えるようにする。麻に実、胡麻、アンズや桃の種子を食べるといい。
便秘になるものは、餅、柿、芥子などである。便秘がちな人はこれらを食べてはいけない。便秘はそれほど害はないが、小便が長く出ないのは危険である。
37 便秘を防ぐ
いつも便秘をする人は、毎日便所に行き、力まずに少しでいいから便通をつけることが大切である。こうすれば長く便秘になることはない。
38 二便をしてはいけない場所
太陽や月、星座、北極、神社に向かって大小便をしてはいけない。太陽の日差しや月明かりが照らしているところにも、してはいけない。天の神、地の神、人の神に向かってしてはいけない。
洗浴
39 入浴の回数
入浴は何度もしてはいけない。体が温まりすぎると、毛穴が開き汗が出て、元気を失うからである。十日に一回くらいがいい。浅めに湯を張り、短時間入浴すれば、のぼせることもない。熱い湯を肩から背中に多く流してはいけない。
40 入浴の心得
熱い湯に入るのは害になる。湯加減は、自分で確かめて入浴しないといけない。気分がいいと熱い湯に入ると、のぼせてしまう。眼病の人や体が冷えている人は熱い湯に入ってはいけない。
41 洗髪
夏でないときは、五日に一度髪を洗い、十日に一度入浴する。夏でないのに、しばしば入浴すれば、爽快であっても元気が少なくなる。
42 温湯と入浴
程良い加減の湯を少な目に張った浴槽に入り、肩から背中に湯を少しづつ短時間注げば、消化、血行をよくする。冬場は、体を温める。汗もかかないので、何度も入浴しても害はない。何度も入浴するときは、体をよく洗わない。ただし、下部はよく洗う。長い入浴をして体を温めすぎてはいけない。
43 入浴と洗髪
空腹時に入浴してはいけない。満腹のときに洗髪してはいけない。
44 たらいの大きさ
浴槽の大きさは、縦87センチ、横60センチ、深さ40センチがいい。底板は厚いものがいい。杉材を用いるのがいい。冬は風よけがあるのがいい。(室内の場合、必要ないだろう。)湯は、18センチ以上張ってはいけない。夏は特に浅いほうがいい。
湯を深く張り、熱くすると、のぼせて汗をかく。体に害をおよぼす。湯がぬるいときは、温かい湯を加えるといい。または、沸かし直すといい。(今は、簡単に温度を保てる浴槽があるので便利になった。)
45 胃腸病と入浴
下痢や消化不良、腹痛の時に入浴すれば、体が温まり身体によい。病気の始まりなら、薬を飲むよりよい。
46 傷と入浴
小さな傷があるときに、熱い湯に入ったのち風にあたると、身体に熱がこもり傷から熱が発生し、小便がでなくなり、傷の部分が腫れてくる。この症状は危険で死ぬことも多い。あつい湯に入ったときは、風にあたらないように注意が必要だ。
俗に、風をあびると体が冷えると思われるが、逆に身体が緊張して熱が逃げにくくなるのだ。
47 入浴後は風に当たるな
入浴後、風に当たってはいけない。風に当たったときは、手で皮膚を摩擦するのがいい。
48 女性の生理と洗髪
女性は生理が始まったら洗髪してはいけない。
49 湯治
温泉は全国各地に多くある。しかし病気によっては、温泉に入っていいものといけないものがある。良くも悪くもない温泉もある。
打ち身、落馬、高所から落ちての打撲傷、伝染性の皮膚病、刀傷、腫れ物でなかなか治らないものには、湯治はよく効く。
中風(半身の不随、腕または脚の麻痺する病気。脳または脊髄の出血・軟化・炎症などの器質的変化によって起るが、一般には脳出血後に残る麻痺状態。古くは風気に傷つけられたものの意で、風邪の一症。)、筋肉の引きつり、けいれん、手足のしびれ、麻痺などもいい。
内臓の病気には、湯治はよくない。しかし、鬱病、食欲不振、血気が悪いとき、冷え性などは、温泉で体を温めるといい。でも、傷などの場合のように速効で効くのではないから、軽く温泉に入るのがいい。また、入浴しても変化のない場合は、入らない方がいい。
発汗症、心身が衰弱、熱病などの場合は入浴してはいけない。これが元で、死んだ人も多い。注意しないといけない。
入浴は、どんな病人でも一日3回までにする。衰弱した人は1回か2回でよい。健康な人でも長湯はいけない。浴槽の端に腰掛けて、湯を体にかけるくらいでいい。長湯して、汗を出してはいけない。毎日、軽く入浴して早めにあがるのがいい。
温泉は、一週間か二週間くらいがいい。温泉の湯を飲むのは害がある。多く飲んだために死んだ人もいた。
50 湯治と食物
湯治しているあいだは、体を温める食事をしてはいけない。大酒、大食もいけない。たまに散歩をし、軽い運動をし、消化を助ける。湯治中に性交をしてはいけない。温泉から帰ってきて10日くらいの間もよくない。
湯治の間は、灸の治療をしてはいけない。10日くらいは補助役を飲むのがいい。その間は、魚や鳥の刺激の少ないものを、すこし食べるといい。湯治したあとに、養生を忘れては、湯治の意味がなくなる。
51 入浴と水
海水の湯で入浴をすると、発熱しやすい。井戸の水か川の水で、海水を半分に薄めて使うといい。
52 汲み湯の効果
温泉のある場所に行けない人は、温泉の湯を取り寄せて、入浴すればいい。このことを汲湯という。冬は、温泉の成分が変わらないから多少効果がある。夏場は成分が抜け水が腐ることもあるので、普通に近くの清水を使った方がいいともいわれる。
巻第五 五官 終わり
巻第六
慎病(病を慎む)
病は生死のかかる所、人身の大事なり。
聖人の慎みたまうこと、むべなるかな。
1予防医学
健康な時から、病気になったときの苦しみを思い、身体を守るように心がけることが大事である。
病気になっているときのことを思い出し、病気でない今、自制し我慢をすれば病気にかからない。薬や、鍼、灸などに世話になるより、病気にならないのが一番である。
2 無病のときの心がけ
病気にかかるまえに、予防をしておけば病気にはならない。病気になってから薬を飲んでも、なかなか治らない。小さな欲望を我慢しておけば、大病にかからない。大病は、辛いものだ。つらい大病のことを思えば、病気にならないように予防するのが大事である。
3 病気がよくなるとき
病気がよくなっているときは、気持ちいいものである。それで気がゆるむと、病気は治るどころか重くなってしまう。病気が少しよくなっていているときも、用心が大事である。後で、後悔しても遅いのである。
4 一時的な快方
一時的な幸福の後には、必ず不幸がやってくる。
5 はじめの養生
病気になると、心身とも苦しい。医者を呼び、薬を飲み、鍼・灸をし、酒をやめ、減食し、いろいろと悩みながら治療をしないといけない。それを思えば、病気にならないように自制しておけば、このような苦しみを味わうことはない。万事、はじめに注意すれば後で悔いはない。ということである。
6 欲を慎む
食欲、性欲の思うままにし、衣食住を考え、暮らしていれば病気にならない。自制しないで気ままに暮らし、病気になれば薬や食事に気を使っても、それはいい生活ではない。
7 養生を守ってくよくよしない
養生の道を守っていれば、健康について悩まずに暮らすことができる。悩みのある生活は、病気をまねく。万一、養生を心がけていても病気になり、死ぬことがあるときは、それが運命であったと思えばいい。運命をなげいてもしかたないものだ。
8 あせらず自然に
病気を早く治そうと無理をすると、治る病気も治らない。あくまで自然に治るのが一番である。病気以外でも、万事あわてると、よくないのである。
9 湿気に注意
暮らしている場所は、常に快適にしておくべきだ。風や暑さ寒さは、すぐに身体に悪い影響をあたえる。これに対して、湿気はすぐに身体に影響がない。しかし、身体に重い病気をまねくことがある。そして、治りにくい。注意しないといけない。
湿気のある、川辺や低地で水辺の場所からは離れて暮らすことである。床も高い方がいい。そして、住んでいるところも風通しのよいようにしておくのがいい。
文禄の朝鮮の役(文禄一年 千五九二年)のときも、戦死者よりも疫病で死んだもののほうが多い。兵士たちのいた兵舎が寒さ、湿気を防がないからであった。
住んでいる場所は、高くて乾燥しているのがいい。酒や茶、湯水を多く飲んではいけない。瓜、果物、冷たい麺類は多くとらない。身体の内側にも湿気は害がある。多くとると、マラリア、熱病、下痢などになりやすい。用心することだ。
10 外邪と傷寒
チフス性疾患は、重病である。病気の中で、もっとも怖い病気である。若くて元気な人でも、チフス性疾患にかかれば死ぬことが多い。感染しないように、いつも注意していなければいけない。発病したら、すぐに十分な治療をしないといけない。
11 酒と中風
中風(半身の不随、腕または脚の麻痺する病気。)は、体内が悪いことから発生する。色白で太った人、元気のない人、40歳を越えて元気が少なくなった人、悩み事があり酒を多く飲む人や多食する人、酒を多くのみ胃腸を弱めている人などは、体内が弱くなっているのでかかりやすい。中風にかかると、手足がふるえ、身体が麻痺してしびれ、喋れなくなる。これは、元気が少なくなったからおこることである。若くて元気な人は、この病気にはかからない。
若くても、たまにこの病気にかかることがある。その人は、肥満で元気がなく酒を多く飲む人である。
この病気は、酒の飲めない人にはほとんどいない。飲めない人がかかるとすれば、肥満や元気のない人である。このような人は、常日頃から注意しておくべきである。
12 春の余寒
春になり暖かくなると、冬に引き締まっていた肌が柔らかくなる。肌に緊張がないときに、寒さが戻れば風邪をひきやすい。草木の芽も寒風に弱いことからわかるように、体を動かし血行をよくし、元気をたもたないといけない。
13 春の冷水
夏は汗をかき、肌が風にさらされると熱をたくさん奪ってしまう。涼しい風に長く当たっていては、病気になりやすい。入浴したあとなどは、風にあたってはいけない。
夏に食べた食物は消化が悪いので、あまりたくさん食べてはいけない。食べるものは、温かいものがいい。冷たい水、麺、生ものなどを多く食べてはいけない。
虚弱者は、嘔吐や下痢に気をつけないといけない。冷水を浴びてはいけない。冷水で顔を洗うと、目を悪くする。冷水で手足を洗ってはいけない。
睡眠中は、扇などで風にあたってはいけない。夜、外で寝てはいけない。
外に長く座り、夜露にあたるのは害になる。酷暑のときでも、涼しすぎることはいけない。日に長くさらされた熱いものの上に座ってはいけない。
14 純陽の四月
四月は春らしい月であるが、色欲は慎まないといけない。雉や鶴(今も食べているのだろうか?)などは、食べてはいけない。
15 夏期の養生
夏は四季の中で一番、健康に気をつけないといけない。日射病、あつさあたり、食べ過ぎ、嘔吐と下痢、熱をともなう下痢などにかかりやすいからである。冷えた生ものはひかえて、用心するといい。夏に、これらの病気にかかると元気を失い衰弱してしまう。
16 夏期と薬
6月、7月の酷暑期は(多分旧暦のことで、現在の7月8月のことだろう)、厳冬のときよりも元気が消耗しやすい。注意しないといけない。漢方薬を長く服用して、消耗を防がないといけない。この季節は、薬を用いて健康を保つようにしないといけない。ここで言う薬というのは、栄養補強剤のようなものである(多分?)。
17 夏の古井戸
夏の季節に、古い井戸や深い穴に入ってはいけない。毒性のガスが発生しているかもしれないからである。もし入らないといけないのなら、鶏の羽を投げ入れて毒性のガスがあるかないかを調べる。羽が舞うように落ちるときは、毒性のガスがある可能性があるので入ってはいけない。火のついたものを、井戸や穴に落としてから入るといいかもしれない。夏至に井戸の水を入れかえるのを忘れてはいけない。(今も入れかえている所があるのだろうか?)
18 秋の衛生
7月、8月になっても残暑が厳しく(多分旧暦で、現在の8月、9月のことだろう。)、夏になり緊張を失った肌はそのままである。秋風によって、肌が痛められることがあるので、用心しなければいけない。病人は、8月になり残暑もなくなっても(現在の9月だろう)、所々に灸ををして風邪を予防し、元気をつけ、淡や咳の病気にかからないようにしないといけない。
19 冬と衣服
冬は寒く暗く、身体の活動的な部分が弱くなる。体の中の元気な部分を大事にしなければいけない。体を温めすぎて、のぼせ、元気な力をなくすようなことがあってはいけない。衣服も温めすぎるようなことがあってはいけない。厚着をして、暖房を効かせすぎたり、熱い湯に入浴してはいけない。仕事をがんばり汗を出して、元気を消耗させてはいけない。(でも、仕事はいつもがんばらないといけないので、つらいところがあると思う。)
20 冬至と静養
冬至を過ぎてから、だんだんと春の陽気が近づいてくる。初めは小さな陽気だが、大事にしないといけない。冬至の日は、仕事は休んでゆっくりとするのがいい。冬至の前5日間と後10日間は、性交は控えるほうがいい。灸もしないほうがいい。
21 冬期の鍼・灸
冬期は急病でないときは、鍼・灸はしないほうがいい。12月はもっとも悪い。あんまもよくない。自分で静かに、導引(5巻11章を参照)をするのは害はない。強く荒い導引はいけない。
22 大晦日の行事
大晦日の日は、大掃除をし、朝まで家の明かりを消さず、家族でなかよく過ごす。目上の人に礼の言葉をいい、家族で「とそ」を飲み、旧年を送り新年を楽しく喜びをもって迎える。これが、守歳(除夜、夜明かしをすること)である。
23 発汗と風と
熱いものを食べて汗がでてきても、風に当たってはいけない。
24 負傷の手当て
高いところから落ちたり、木や石におし倒されたりしてできた傷のところには灸をしてはいけない。薬を飲んでも効果がないからだ。
武器によって傷つき出血多量になった人は、のどが渇くものだが、水や粥を与えてはいけない。粥を飲むと、血が沸きだして必ず死んでしまう。
刀傷・打撲・骨折・口の開いている傷には、風をあててはいけない。硬直・けいれんを起こす病気になったり、破傷風(高熱をともなう病気)になる。
25 冬の遠出
冬、朝早くから遠出をするときは、酒を飲み寒さを防ぐのがいい。空腹で寒風にあたってはいけない。酒を飲まない人は粥をたべるといい。生姜もいい。霧があるときは、遠くに行ってはいけない。やむえない時は、酒を飲んだり、食事をとって身体を保護しないといけない。
26 雪中での冷え
雪の中を歩いてひどく冷えたときに、熱い湯で足をぬくめてはいけない。火にあたってもいけない。熱いものを食べても飲んでもいけない。
27 頓死を防ぐ
急死の病気は、脳卒中・中風(6巻11章を参照)・ガス中毒・中毒・あつさあたり・凍死・火傷・食あたり・日射病・破傷風・喉頭ジフテリヤ・肺水腫・失血・打撲・小児のジフテリヤなど多い。
五絶というものもある。首をくくる縊死(いし)、圧死、溺死、就寝中の急死、婦人の難産の死である。
日頃から、これらの病気や傷害に備えておき、慌てないようにする。
28 奇異なことに迷わず
世間でいう不思議なことや奇異なことは、目の前で見たことでも、鬼や神の仕業ではない。人には精神病や眼病がある。このような病気にかかっているものには、実在しないものが見えることがある。このようなことを、聞いて信用してはいけない。
択医(医を択ぶ)
29 良医を選ぶ
病気に注意するだけでなく、病気にかかったときにお世話になる医者にも注意が必要である。大事な両親や自分を、やぶ医者の任せるのは危険なことである。医療を詳しく知らなくても、医術の大意を知っていれば、医者の良否はわかる。書画がうまくなくても、基本的な技術を知っていれば、書画の善し悪しがわかるようなものだ。
30 医者の世襲はいけない
医者は、人を救う職業である。自分の利益のためにする職業ではない。医療の技量が悪いと、患者を危険な目にあわす。医者は学問ができ、才能ある人がする職業である。それらができないとわかれば、医者を志してはいけない。他の職業をさがすべきである。
医者の世襲は、子孫に才能があればいいが、なければよくない。
31 儒学と医学
医者を志すものは、儒学の本を学び理解することが必要である。儒学の本が理解できないのであれば、医学の本を理解することはできないだろう。学問がなければ、医学以外のいろいろな技術も学ぶことができない。
儒学の理論をもって医学も理解しないといけない。
32 良医と福医と俗医
学問を習熟し、医学に精通し、医術に心をくばり、多くの病気を診察し、経過を見ている医者は良医である。医学を好まず、医道に精進せず、医学の本を読まず、読んでいても理解しない、新しい説に耳を傾けない医者は、いやしい職人である。医学と治療は別のものだと言い、権力者にこびを売ることで医者になったものは、福医または時医という。才能も徳もないが、運がよくて財産を築いたものと同じ人である。そのような医者を良医だと思ってはいけない。医術も疑わしいからだ。
33 医道に精進
医学の本を多く読んでも、雑で思考・工夫がなく、治療がまずいのは、悪い医者である。医学を学んでいないのと同じである。また、医学の本を多く読まなければ、医術に精進もできないでの、良医になれない。
34 君子医と小人医
医者になるならば、君子医といわれる医者になるべきだ。小人医になってはいけない。
君子医とは、人を救う人のための医者である。小人医とは、自分の利益のために医療を行い、人を救うための医療を一番の目的としていないものである。
医者とは、人を救うべき職業である。身分や貧富の区別なく、誠実な治療をするべきである。人命にかかわる職業であるから、病人をおろそかにしたり、のんびりとしてはいけない。身分が低いとか貧乏だからといって、病人をおろそかにする医者とは、医者の意味をなくしたものである。
35 医者・利養・治療
医者は、利益をかえりみず人を救わないといけないというのは、そのとおりである。しかし病人にたいし誠意をもって医療行為をすれば、自然と利益は得られるものである。
36 医術の工夫
医者になった人は、家にいるときは常に医学の本を読み理解しないといけない。病人を診察すれば、病人の症状を医学の本を参考にし、細心の注意をもって薬を処方しないといけない。病人を引き受けたなら、他のことに気がそがれることなく、治療に専念することである。医者とは常に医学を専心に学ばなければ、医業は進歩しないのである。
37 医術の心得
医者でなくても、薬の知識をもっていると、養生の点から人を助ける役にたつ。しかし本業でないから、病人には良医を紹介するのがいい。急をようする病人や無村医などでは、救急用に薬を処方することができれば人の役にたてるから、ひまな時間があるなら医学の本を読んでおくことはいいことである。
医学を知らないので医者の良否がわからずに、やぶ医者を選んでしまい、間違った治療のために死んでしまった例は多い。(現在もこういう例はあると思う。)怖いことである。
38 良医は医学十年の労を積む
どのような身分のもとの子供でも、その子供に才能があるのなら医者を目指すための環境を整えてやることだ。儒学の本を読ませ基礎的な学力をつけさせ、医学の本を学ばせる。名医のもとに10年間、入門させ医学を学び医術を学ばせる。医学と臨床実習を合わせて20年もすれば、かならず良医になれる。
そうすれば自然に名声が高くなり、地位の高い人や立派な人に招かれ、人々から敬愛され、信用を得て報酬も多くなる。生涯、ゆたかに暮らせるだろう。このような医者は、国家の宝である。
どのような身分のものでも良医を目指すのであれば、早く出世できるのである。
それと反対に、簡単な医学の本を少し読み、薬の知識も少ないが、見た目や、もっともらしい動作のみで病人と接し、口先だけで地位や財産を持つものに近づいていく医者は、生涯とるに足らない医者で終わるであろう。こうしたつまらない医者は良医をけなすことが多く、卑劣で、人の生命をあずかる医者としては最悪なのである。
39 俗医の学問嫌い
俗医とは、医学を嫌って学ばない。簡単な医学の本を読み、薬の処方を40から50くらい覚えると、病人の扱いに慣れてくれば、通常の病気を治療するのは上手である。医学の本をよく読んでいても、病人の扱いになれていない医者よりも優れている。
しかし俗医は、診断を間違うことがある。診断に困るような病気や奇病には、力を発揮できない。(俗医を悪いと決めつけるのは難しいと思う。簡単な治療をもとめるのであるなら、かえって俗医のほうがいい場合が多いのは確かだろう。)
40 医者を志す人
医者になる人は、まず志をたてる。ひろく人を救済するには、どのような人に対してでも誠心誠意とりかからないといけない。医学を学び、医術に精通すれば、無理にへつらったり、世間にもとめなくても、人望は自然に得られる。そうすれば、かぎりなく幸せであろう。
自分の利益を求めるのを目的としたら、人を救う気持ちもなく、信用もなくすであろう。
41 貧者と愚民と
貧しい人は医者にかかることができずに死ぬが、愚かな人はやぶ医者に誤診されて死ぬものが多い。
42 医術と博学であること
医術は、医学書をたくさん読み考えないと、上達しない。精密に理解しないと、医術を極めることはできない。博学と精緻とは医学を学ぶためには必要である。医学を学ぶ人は、志を大きく持ち、医術の細かいところまで理解しないといけない。
43 日本の医学と中国の医学
日本人の医者が中国人に及ばないのは、学問をする努力が負けているからだ。とくに、近世(貝原 益軒の生きていた時代)は日本語の治療書が多くあるので、難しく古い中国語の治療書を読まなくなってきた。これでは、日本人の医者の技量が悪くなる。原因としては、仮名文字ができたから難しい漢書を読める人が少なくなったから、と思える。
44 医学なき医術
医学の本をいくら読んでも、下手な医者はいる。まして医学の本を読まないで上手な医者になれるはずはない。
45 医者は仁の心をもつ
医者は、慈愛の心をもって仕事をしなければいけない。名誉や利益を求めてはいけない。重病で薬の効果がないとわかっていても、気休めかも知れないが薬を多く与えて安心させるべきである。病人を失望や落胆させてはいけない。
46 古法を重んずる
医学を学ぶには、昔の方法を理解し学び、昔の治療法を参考にして工夫するのがいい。また時代にあった治療法や、人や場所による治療をし、名医の治療法を参考にすれば間違いは少ない。
昔のことを無視するのも、現在の治療法を無視するのも、ともによくない。温故知新と言う言葉にもあるとおりだ。
47 投薬の適中と偶中と
良い医者ならば、病気にあった薬を投与してくれる。悪い医者の、たまたま投与した薬が病気に効果があったとしても、それは運が良かっただけで、普通は病気にあわぬ薬を投与されることがほとんどである。
48 医者と時勢
医者になろうとするものは、運やタイミングがよくて医者になったものを、うらやましく思ってはいけない。名誉や財産をそのように築いたとしても、その医者たちの多くは、悪い医者であり、医術はすたれていくのである。
49 みな医術を学ぶがよい
いろんな技術や芸には、日常の生活において無益なものが多い。ただ、医術だけは無益なものはない。医学生でなくても、医術を少しは学んでおくことだ。儒教を学んでいるものは、世の中のことを何でも知っておかないといけない。それゆえに、医学を学ぶものは、儒教の教えを学ばないといけない。
医術を知っていれば、自分の養生やまわりの人たちにとっても有益である。いろいろな技能の中で、もっとも役にたつものである。
しかし、専門の医学生でないから、むやみに薬などを用いてはいけない。
50 医学生と医書
医学の本は『内経』と『本草』を基本にする。前者が、医術・病気のことについての本。後者が薬についての本である。それ以外にも、たくさんの医学の本を読まなければいけない。
51 『千金方』は医の良書
『千金方』とは、孫思ばくという古い時代の名医が書き残した本で、養生の方法や治療法が記してある。これは大いに参考にすべきである。たまに間違ったところもあるが、すばらしい点のほうが多い。孫思ばくが、100歳を越える寿命を持ち得たのも、養生の術に長けていた証拠であろう。
52 日本の医書刊行
日本で最初に認められた医学の本とは『千金方』であった。1582年に印刷され始めた医学の最初の本は、『医書大全』である。1629年以降、一枚板に刻んで印刷した医学の本が増えてきた。
53 医書の選択
いろいろな医者の書いた書物には、短所や長所な内容がたくさんある。だから、一人の書いたものばかり読まず、たくさんの本を読み、いいところを参考に、悪いところは除外しないといけない。そのようにして、編纂した医学の本は社会の宝となる。
医学の本には、同じような内容の本が多い。無用なことが書いてあるものも多い。それらを読むのは無駄なことになることが多いから、疲れる。それらを無駄なく要点だけを集めた本を作ることのできる才能を持った人は、世間にかならずいると思う。(これは、貝原 益軒自身のことを言っているのではないか。そうだとすれば、自分で自分を誉めているようで、茶目っ気がある。)
54 医書の長短
『局方発揮』が出版されてから、古い『和剤局方』が見られなくなった。『和剤局方』は、古い医学を学ぶ上で役に立つから捨ててはいけない。しかし、烏頭(薬にもなるが毒)・附子(婦人のお歯黒に使う)を多く紹介しているので、そこはよくない。
いろいろな医学の本があるが、時代にあったものは取り入れ、時代に合わなくなったものは採用しないようにする。
55 他医をわるくいわないこと
前の医者が間違った治療をしていても、それを攻めてはいけない。他人をおとしめて自分を誇示するのは、悪い癖で人から軽蔑される行為である。
56 薬の選択
昔の人の説にはいろいろあり、一定でない。病人にあわせた治療、投薬、食事を選んで使用すべきである。だから、昔の人の説を一概に悪いと決めつけるのはよくない。
57 医術の三要点
医術は学ぶことが多い。要点は三つある。
病理学、診断学、治療学である。運勢や血管の道筋も次に大事である。
あと、名医の諸説も大事である。
薬の処方や、病人の食物の取り方、健康な人の病気への予防なども知っていること大事である。
58 上医・中医・下医と薬
病気になっても医者にかからないのは、中医にかかっているのと同じだ。病気になれば、上医(技術のすぐれた医者)に薬を服用してもらわないといけない。最近は上医が少なく、薬を服用してもらう医者がいないから、医者は無用だと思われている。しかし、それは間違いである。簡単な風邪や咳などの症状ならば、上医でなくても誤診せず正しい薬を服用できるのである。また、そのような時に使う薬は、間違って服用してもあまり害はないであろう。
巻第六 慎病 終わり
巻第七
用薬
1 薬と病状
人の体は、病気にかからないとはいえない。病気になったら医者を呼んで治療を求める。医者には、上中下の3種がある。上医は知識と技術を持っており、これによって病気を治療する。上医は、この世界の宝であり、その功績は宰相につぐものだ。
下医は、知識も技術も持っていない。それゆえに、むやみに投薬して誤診することが多い。薬というものは、人のバランスを崩す。バランスが崩れることにより、病気を治療する。もし薬が病気にあっていなければ、薬は毒になってしまう。
中医は、知識や技術で上医におよばないが、薬をむやみに使用することがいけないことを知っている。それゆえ、病気にあわない薬を投薬することはない。中医は自分の知らない病気に対しては、治療できないし、しないのである。
病気にかかったときは、すぐに治療して楽になりたいが、医者の善し悪しを考えずに治療を受けると、逆に悪くなることがある。悪い医者にかかるくらいなら、自然に治るのを待つ方がいい。
2 薬の濫用は危険
薬を、意味なく使うと体の調子を崩し病気になってしまう。
3 庸医の薬
病気にかかっても、名医がいないときは薬を飲まず、ただ病気が治るのをまつべきだ。早く病気を治したいと思って、医者を選ばないのはよくない。
悪い医者は、病気にあう薬を出すことはまれである。
薬は、体の調子を変える性質がある。それで病気を治療するのであるが、病気にあわない薬を服用したら治るどころか悪くなってしまう。病気の害よりも薬の害のほうが大きくなってしまう。薬を用いないで、慎重に養生すれば薬の害を受けずにすみ、病気も早く治るであろう。
4 良医の投薬
良医が薬を使用するときは、病人の症状をみて臨機応変にその時によい薬を使う。一つの方法にとらわれない。古い考えを、かたくなに信じてはいない。
とはいえ基本をしっかりとらえないと臨機応変に対応できない。古い考えもよく、しっていることも重要である。温故知新と言う言葉のように。
5 補薬より食補を
胃腸を整えておくには、ふつうの食事をしていればいい。薬を常用していてはいけない。たとえ高価な薬であっても、病気にあわなければ胃に負担をかけるし、食欲もなくし、病気にもなる。強力な効果を持つ薬は、人の体にも負担が大きい。病気でないなら、薬を使う必要はない。ふつうの食事のほうが、いい。
6 自然治療
薬を飲まなくても自然に治る病気は多い。これを知らず、むやみに薬を使い、かえって病気を悪くし、食欲をなくし、病気が治らずに死んでしまうものが多い。薬を使うのは慎重にしないといけない。
7 病気のはじめと良医
病気にかかったときは、始めにその病気の症状を詳しく知る必要がある。診断をして正しく病気の症状がわかるまでは、薬を使用してはいけない。間違った薬を使用すると、病気を悪くすることがある。最初に正しく診断することが大事である。それも早い時期にするのがよい。
8 衛生の道ありて長生きの薬なし
生まれもっている寿命を延ばすための薬というものはない。長生きの薬として、使われているものには効果はない。かえって体を悪くする。養生とは、生まれもった寿命を保つことである。(将来、本物の長生きの薬はできるかも知れない。それまで長生きしていたいものです。)
9 薬の良否
薬屋にある薬にも、善し悪しもあるし、本物も偽物もあるから注意しないといけない。さらに薬の製法で、おなじ薬であっても違う性質になる。また、人によって薬の効果が違うこともあるので、気を使う必要がある。
土地や季節によって食事の味が違うように、人や症状や時期によって薬の調合を変えることが大事である。
10 薬の煎じ方
どのような珍味でも、調理の方法が悪いと味はよくない。どれだけよい薬であっても、その調合が悪いと効き目がない。
新鮮な薬の材料を、短時間に、ちょうどいい温度の火で煎じるのがいい。
滋養強壮的(栄養剤?)なものは、十分に熟したものを長く、低めの温度で煎じる。
11 薬量
薬剤の量は、日本人の体型に合わせて中国の医学書を参考にして決める。
中国の人は、日本人より壮健で胃腸が強いので、薬の量は中国の人よりも少ないほうがいい。
日本には中国のように薬の材料が多くなく、輸入しているものなども多いので価格が高くなる。それゆえに、薬の量を少な目にしている。
日本の医者は中国の医者よりも劣るので、誤診したときに多くの薬を服用させていると問題である。それゆえに少な目にしている。
などと言われて、日本の薬剤の量は中国のものよりも少な目になっている。
12 日本人と中国人
日本人は、中国人のように壮健で胃腸も強くないので、薬を少なく服用するのがいい。とは言っても、体型はそれほど違わないのだから、薬の量が半分もないというのは少しおかしい。栄養剤のようなものも、量が少なければ効くものも効かない。
また病気の症状が重いときは、少ない薬ではいけない。一杯の水で、おおきな火事を消すことができないのと、同じである。
砒素の毒は、3.75グラム服用すれば死んでしまう。しかし、これより少なければ死なない。フグも、多く食べなければ死なない。強い毒でも少なければ、効き目は少ない。まして効果の弱い薬を少なく服用して病気が治るであろうか。
現代(貝原益軒の生きていた時代)の医者は、病気にあった薬を使用するが、早く治らないときは、薬の量が少ないためではないだろうか。(今は薬の量はとても多くて、必要以上に薬を使っているように思う。)
13 利薬の分量
あまり科学的ではないが、強い薬の一服の分量は5.6グラムから7.5グラムくらいがいいと思う。その間の増減は病気の人の体格や体力で決めればいい。
14 補薬の量
滋養強壮剤の一服の分量は、3,75グラムから5.6グラムくらいがいい。のどを通りにくい時は、すこし減らしてもいい。薬と滋養の二面性のあるものは、4.5グラムから6.7グラムぐらいがいい。これも人の体格や体力で増減させればいい。
15 婦人の薬量
婦人の薬療は、男性より少な目でいい。強い薬は4.5グラムから6.7グラム、滋養強壮剤の場合は、3.75グラムから5.6グラムくらいがいい。気力、体力とも強い人は、これよりも多く服用する。
16 小児の薬量
小児の薬の量は、1.8グラムから3.75グラムまででよい。これも子供の身体の大小によって増減すればいい。
17 薬を煎じる水量
大人の、強く効く薬を煎じるとき、水は一服の量に対して309グラムから337.5グラムを用いる。あるいは強い火力で煎じるときは、206グラムから225グラムの水で煎じ、それを二回に分けて服用する。かすは、捨てること。二度、煎じてはいけない。
病気が重いときは、朝夕に二回かそれ以上でもいい。高熱がありのどが渇く病気には、その症状に合わせて多く服用してもいい。
滋養強壮剤を煎じるには、187.5グラムから206グラムの水でいい。一服の量の大小で増減を決めればいい。虚弱体質の人は、少な目の水で煎じるといい。
体質的に強い人は、一服に400グラムの水で煎じ、それが半分の量になるまで弱い火で煎じる。かすは200グラムの水で煎じ、それも半分になるまで煎じる。それらをあわせて250グラムになったものを、胸につかえないように少しずつ服用する。空腹時に熱くさせ(滋養強壮剤の温度を上げるのか、体温を上げるのか不明?たぶん前者だと思う)3,4回にわけて服用する。また栄養剤は、一日に一服。もし、飲みにくいのらな、昼間に二度飲めばいい。日が短い時期は、病人の症状を決めて回数を決めればいい。また飲みにくいことがない人は、それ以上服用してもかまわない。しかし、食もたれしているときは服用してはいけない。
18 補薬の使用法
滋養強壮剤は、胃もたれになりやすい。そうなっては、害になるだけである。強い効果の薬を飲むときは、注意しなければいけない。一回の服用する量が多いと、血流が悪くなるときは少なく服用する。人参や甘草(マメ科の多年草で鎮痛・鎮咳に効果がある)、オケラ(キク科の多年草、根が健胃薬)などは飲みにくい。そんなときは利尿・強壮剤をとらずに、生姜(食用・香辛料、健胃剤・鎮嘔剤)やクス科の植物(どのような植物か調査中?)を多くとればいい。
病気によっては、トリカブトの根を乾かした生薬(いくくすり、起死回生の薬)・肉桂(クスノキ科の常緑高木、香辛料・健胃薬・矯味矯臭薬になる。)を少し加え、升麻(「うたかぐさ」、ウマノアシガタ科、根茎を解熱、解毒に用う)・柴胡(「さいこ」、セリ科、根を解熱に用う)を取り除いて、肉桂と生姜を加えることもある。そうすると、滋養強壮剤の効果がよくなる。
虚弱体質な人や、熱のない病気のときには薬の効きをよくするために、1.9グラムから3.75グラムくらい加えるといい。もちろん病状によってである。健康な人には使わないのがいい。
19 身体の大小と薬量
身体が小さく胃腸も小さくて虚弱な人には、薬の量は少なくていい。少ないといっても3.75グラムより少ないのもよくない。逆に体格もよく胃腸も強い人には多くてもいい。
20 小児の利薬・補薬の煎じ方
小児の薬は、187グラムから206グラムくらいの水で煎じたものがいいい。よく効く薬の場合は、7分間煎じ2,3度に分けて服用する。かすはすてる。栄養補強剤は281グラムから309グラムの水で煎じ、その量が半分になるまで煎じて使うといい。
21 時宜にかなった服薬
中国の父母の喪は、必ず3年である。日本は古い朝廷(いつの朝廷かは調査中?多分、室町時代以前だと思う。)の時代に喪は1年と定められた。それは、日本人は気力、胃腸が中国人より弱いためである。それは、理にかなったことである。
しかし日本人であるのにもかかわらず、喪を三年するものがある。すると、多くのものが病気になり死んでしまった。死んでしまっては父母に対して不孝である。
これと同じように、薬の使用量も日本の風土にあわせ、中国の半分でいい。一回の使用量は、3.75グラムから7.5グラムくらいでいい。病人の症状、体力によって増減すればいい。決められたことを守るよりも、状況をよく考え患者と接するのが大事である。
22 日本人の薬量
今まで述べてきたような薬の分量、水の量を医学生でない私(貝原 益軒)が言っているのは軽率で僭越だと言われるが、いまの日本人の体格や体力を思うとこれでいいと思う。識者は、古今を考えて薬療の効果の強弱、量の大小を定めてもらいたい。(現在も同じことがいえるだろう。現在の薬学の専門の人のいうことを聞いたほうがいいかもしれないが、自分にあった薬を、本当に考えてくれる医者に任せた方がいいのかもしれない。)
23 煎薬と四味
煎じ薬に加える、香味料がある。甘草(マメ科の多年草で鎮痛・鎮咳に効果がある)は、毒素を消し、胃腸を助ける。生姜は薬の効果を全身に早く導き、胃の負担を減らす。棗(食用・強壮剤)は、元気を補い胃を丈夫にする。白ねぎ?は、寒さや風を防ぐ。灯心草(「とうしみそう」、イ草科の植物)は利尿によく効き、(何のだろう?、多分、下腹だと思う。)腫れをとる。
24 泡薬の使用法
今日(貝原 益軒の時代)、医者の間に泡薬の法がある。薬剤を煎じないで、煮えたった湯にひたすのである。(紅茶のティーパックのように?)世間で使う振薬(次の25章を参照)ではない。振薬よりも優れている。その方法は、薬剤を細かくきざみ、目の細かいふるいをかけて、残ったものをさらに細かくきざんで粗粉(つくりあがらないもの、まだ完成品ではない)をつくる。布に薬袋をひらいてきざんだ薬を入れて、湯煎したお椀に薬袋を入れて、その上に沸騰した湯を少しそそいで、薬袋をうらがえし、そしてもう一度沸騰した湯を少しそそぐ。熱湯は二回でお椀の半分くらいでいい。薬液が自然にしみ出してくるのをまつ。しぼりだしてはいけない。蓋をして、しばらく待つ。長いと、薬液が出過ぎて効力がなくなる。ほどよく薬液がでて、熱湯が少し冷めて温かいうちに飲むのがいい。このように二度ひたして二度にわけて飲む。そのときのかすは捨てる。袋のかすをしぼってはいけない。薬液が濁ってよくない。しかし、薬の効果は強くなるから強く効く薬が必要ならいい。外傷からの病気、食中たり、腹痛、日射病などの病気には、熱湯をそそぐよりもいい。振薬は用いてはいけない。薬汁が早く薬力が強くなるからである。茶を沸騰した湯にひたして、そのはじめのものを飲めば、茶の成分が濃く味もよい。長く煎じると茶のよさも味も悪くなるのと同じである。
25 振薬の法
振薬とは、薬を袋に入れ熱湯につけて、はしではさみつけ、しきりに振り動かし、薬汁を出して服用する方法である。自然にしみ出して出来たものでないので、薬湯は濁って薬の力がすぐに発揮できない。滋養強壮剤は、通常の煎じ方で十分に煎じるのがいい。泡薬(前の24章を参照)にしないほうがいい。いずれにしても、煎じた薬を入れる袋の目はきめ細かい方がいい。中国には泡薬のことを記したものはないが、今の時代にあっているのなら、病状しだいで臨機応変に使ってもいい。
26 補薬と利薬
滋養強壮剤または栄養剤は、長く煎じると人の身体に吸収されやすくなるのでいい。また強い効き目の薬は、薬剤の成分を壊さないように生のままがいい。
27 補薬の飲み方
滋養強壮剤は、煎じた湯が温かいうちに少しずつ飲めば飲みやすい。少しずつ飲んでゆるやかに効果を得ればいい。一時に多くを服用してはいけない。服用するときは、酒や食事を多くとってはいけない。また消化の悪いものもいけない。薬の効果が薄れるし食欲がなくなると、病気が重くなる。節制が必要である。
良医は、滋養強壮剤などの使い方が上手である。やぶ医者は、使い方が下手で効果がないばかりが害になる。古い時代の人たちは、滋養強壮剤と同時に薬を服用させていた。薬の力で体の悪いところがなくなるので、滋養強壮剤が体に吸収されやすい。薬を併用しなければ吸収されにくく、かえって害になると、古い時代の人たちは言っていた。(現在は気軽に滋養強壮剤を使用しているが、本当に体のためになっているのかは疑問だ)
28 利薬の飲み方
よく効く薬は、強い火で煎じ多く飲んで早く効果を上げるのがいい。
29 丸薬と散薬と煎湯と泡薬と
およそ丸薬は、性質がもっとも穏やかで、その効きめはおそい。胃腸の最後まで薬がとけずに届くから、胃腸の消化不良を治す。散薬は細かな粉薬で、丸薬よりも早く効果がある。しかし特異な循環系統には効果がいきにくい。上部の胃腸の病気に効果がある。湯で煎じた薬はさらに早く効く。上中下、胃腸、特異な循環系統によく効く。泡薬は、さらによく効く。外傷からの病気、日射病、食中たり、腹痛のさい服用するといい。
30 薬の服用
病気が身体の上部にあるならば、食後の少しずつ服用し多く飲んではいけない。中部にあるときは、食後一定の時間に服用する。下部にあるときは空腹時に何度も多く飲んで、下部まで薬がいくようにする。手足・血管の病気のときは、日中の空腹時に服用するといい。骨髄の病気のときは、食後、夜に服用するといい。もし、薬が飲みにくく逆流するようなら、少しずつゆっくりと飲めばいい。急に多くを飲んではいけない。
31 薬を煎じる人
薬を煎じるときは、焼き物の鍋を使う。また煎じる人は、そそっかしい者にやらせてはいけない。
32 薬湯・丸薬・散薬の用い方
薬を服用して五臓・手足まで効かすには、薬湯を用い、胃の中に留めおくには散薬を用い、胃腸の奥の病気には丸薬を用いるのがいい。急速な病気には薬湯、ゆるやかな病気には散薬、もっともゆるやかな病気には丸薬がいい。食中たり、腹痛などの急病には薬を煎じた湯がいい。または散薬もいい。丸薬は効きめが遅いので、使用するなら細かくくだいて使うといい。
33 中国と日本との薬剤調合
中国の医書の中の薬剤の分量を書いたものをみると、一回の服用する量がとても多い。煎じて使う薬も水の量がとても少ない。それで、とても濃い。ものによっては一回の服用する量が日本の10回分のものもある。
34 中国と朝鮮の煎法
朝鮮の煎じ方も中国のものと同様である。
35 煮散の法
中国では煮散という方法を使っている。煮散とは、薬を粗い粉にし、目の細かい布の薬袋に入れて、熱湯の沸騰したものに入れ、しばらく煮て薬汁が出てきたときに取り上げて服用するのだと思われる。薬汁が早く出て、その出始めに飲めば薬の力は強い。長くおくと薬の力は弱くなる。
この方法は、よく効く薬を煎じるときによく、薬の力は強いはずである。補薬はこの方法はよくない。
36 甘草の使用量
甘草(マメ科の多年草で鎮痛・鎮咳に効果がある)は、今の時代(貝原益軒の生きている時代)の俗な医者は中国の10分の1しか使わない。あまりに少ないので補薬にならない。せめて5分の1は使うのがいい。あとは、人の症状や体力をみて加減すればいい。
日本人は中国の人より体力気力ともに弱いので、純粋な補薬だけでは体に受け付けにくい。そこで甘草や棗(食用・強壮剤)を、ほどよく加える。甘草はあまく、腹が張るのを防ぎ?(防がないのかも)、薬の効力を薄めてくれる。
37 生姜の量
生姜は薬一服に一切れ、もし寒さや風を防ぐためや、痰を抑えるのに使用するなら二切れ用いるといい。皮をむきとってはいけない。乾いたものと干したものは使ってはいけない。生の生姜は、補湯に二分、利薬に三分、嘔吐の症状には四分付け加える。
38 棗の使い方
棗(食用・強壮剤)は、大きなものを選んで用い、種を取り去って一服の薬に半分を使うのがいい。食通が悪くなる症状には使用しないのがいい。強い薬には用いないのがいい。中国では強い薬でも使うとあるが、日本人にはよくない。加えると薬の力も弱くなる。腹がはる、消化不良、薬が飲みにくい人には用いるのは禁物である。竜眼肉(りゅうがんの種子、ムクロジ科の常緑高木)も、食通が悪いものには使用してはいけない。
39 中国と日本との味つけ
中国の料理書に書いてある料理の方法は日本のものと違って、みな脂っこくて味付けも濃く、膳立ても甘美である。(食品を膳に配置するセンスが、感覚的に甘く快く感じられること。もしくは、味が甘くよいことなのかもしれない。?)その味もひどく重くてくどい。中国人は胃腸が強いので、このような料理もよく消化する。
日本の人はこのような料理を食べると、元気な若い人でもすぐに満腹し、消化不良になって病気になるであろう。日本人には、淡泊で軽い食事がいい。料理人の腕前も、味の軽いものがいいとする者を優れた職人とする。これは中国と日本の風土や気風の違いからである。だから、補薬を小服にして甘草(マメ科の多年草で鎮痛・鎮咳に効果がある)を少なくし、棗(食用・強壮剤)は少し用いるようにしないといけないのは当然である。
40 煎じ薬と水の選択
薬を煎じる水は、新鮮で清らかで味の良いものにしなければいけない。早朝にくむ水を井華水という。この水で薬を煎じるのがいい。また茶や吸物を煮るにもいい。新汲水は、夜明けでなくても新たに汲んでまだ器に入れていないものをいう。これもいい。器に入れて長く時間をおいたものは使用してはいけない。
41 利湯と煎じ滓
貝原益軒の生きていた時代の世間では、効果の強い薬を作るにも、煎じたかすに水を206グラム入れて、それを半分になるまで煎じ、それを別に煎じていたものをあわせて服用する。でも、かすまで煎じていては薬の力は弱く病気が治りにくい。一度煎じたなら、かすは捨てるのがいい。
42 生姜の用法
生姜を小さく分けるときは、根の肢の多いものがよく、その中の一肢を縦に長く割って大小にしたがって三つか四つに分ける。なお医書に、生姜の分量に重さを使わずに片を用いるのは、生姜を掘り出したときは重く、日がたったものは乾いて軽いのからだ。それゆえ幾分といわずに幾片というのである。
43 棗をとる時期
棗は樹の枝になったままでよく熟し、色の青いのが白くなり、さらに少し赤くなったときにとるのがよい。青いのはまだ熟していないし、真赤になったのは熟しすぎて果肉がただれていてわるい。色が少し赤くなって熟しすぎないときにとり、日に長くほしてよく乾いたときに蒸してほすとよい。ほす前に蒸すのはよくない。十分にほしていないのもよくない。
薬局は市中の店に売っているものは、未熟なものをほして売っているので、使ってはいけない。樹上で熟しすぎたものもいけない。棗は自宅の庭にかならず植えるようにする。熟して適当なときに取っておくといい。
44 服薬と酒食と
およそ薬を服用したときは、すぎに飲食をしてはいけない。また薬の効力がまわっていないときに酒を飲んだり食事をしてはいけない。そしてまた薬を飲んですぐに横になり眠ってはいけない。眠ると薬の力がまわらずに害になる。気をつけることだ。
45 薬とともに食べてはいけない食物
薬を飲むときは、朝夕の食事は日頃よりも注意して選ばないといけない。脂の多い魚、鳥、獣(豚などと思う?)、なます、さしみ、すし、肉びしお(肉を塩漬けしたものだと思う?)、塩から、なまぐさいもの、堅いもの、すべての生の冷えたもの、生菜で熟していないもの、古くてわるいもの、色と臭いがわるく味の変わったもの、生の果実、つくり菓子、あめ、砂糖、餅、だんご、胸につかえるもの、消化しにくいものは食べてはいけない。
また、薬を飲む日は、酒を多く飲んではいけない。日が長いときも、昼の間に菓子や点心(正食の前にとる簡単な食物)を食べてはいけない。薬力がまわっているときは、食事をひかえるのがいい。点心を食べると、昼間に薬の効果がまわらなくなる。また、死人や産婦などを見ると、気分が悪くなり薬の効力がなくなる。用心して見てはいけない。
46 補薬と利薬の煎じ方
補薬を煎じるには、堅い炭などで強い火を使ってはいけない。かれた芦の火、枯竹、桑の柴の火、あるいは消し炭などのやわらかい火がいい。激しく燃える火を使うと薬力を失う。また、強い成分の薬を煎じるには、堅い木、堅い炭などの強い火を用いるといい。これは薬力を増やすことになる。
47 薬量と身体の大小と病状と
薬一服の大小・軽重は、病状・体格・体力により増減する。補薬は少しずつ服用し、ゆっくりと効果をあげるといい。多く使うと、食通をふさいでしまう。発散(ちらし薬、腫れや痛みなどを散らして癒すのに用いる外用薬)・下剤・便秘薬などの効果の強い薬は、多く飲むといい。早く効果を出すのが大事である。
48 薬を煎じる器
薬を煎じるには磁器(有田焼・九谷焼の類、少しもったいない気もする。)がいい。銅を嫌わない薬なら、古い銅器でもいい。新しい銅器は、よくない。薬鍋といわれるものは、銅が厚いのでよくない。薬を入れておく缶というのは銅が薄く、小さいものがいい。
49 利薬の煎じ方
効果の強い薬を長く煎じ詰めると、薬のもっている力をなくしてしまう。煎じないで煮て、薬の力があるうちに服用すればいい。茶を煎じ、生魚や豆腐を煮るのと同様である。煎じすぎたり、煮すぎたりすると味が悪くなるし、消化も悪くなる。
50 解毒に水を
毒に当たって薬を用いるときは、どんなことがあっても熱湯を用いてはいけない。冷水がいい。熱湯だと毒の力を増すことになるからだ。
51 中毒と応急処置
食物の毒やその他すべての毒に当たったときは、黒豆や甘草(マメ科の多年草で鎮痛・鎮咳に効果がある)を濃く煎じ、それが冷めたときに何度も飲むといい。熱いのは飲んではいけない。竹の葉を加えるのもいい。もし毒を消す薬がなければ、冷水を多く飲むのがいい。そして多く嘔吐するのがいい。これは古い時代の人が応急処置として伝えている方法である。知っておかなければいけない。
52 酒と煎湯
酒を煎じる湯に加えるのは、薬を煎じ終えたときに加える。早くから加えてはいけない。
53 腎臓を養う方法
腎臓は水を支配する。内臓が活発に活動すると、精液もたくさん作られる。腎臓にだけ精液があるわけではない。それゆえに、腎を助けるために腎臓の薬だけを用いてはよくない。腎は、身体の基本である。それゆえに、これが弱ると虚弱になる。
養生とは虚弱になることではない。腎をよく保養すべきである。薬と食事療法では腎はよくならない。精気をおしむことだ。
54 散薬と丸薬との効用
粉末の散薬は、血液にまでまわらない。身体の下部の病気には、大きな丸薬を用いる。胸からへそまでの上腹部の病気には、それにつぐ大きさの丸薬を用いる。胸から上の部分の病気を治療するには、きわめて小さな丸薬を用いる。薄い糊で製薬した丸薬は早く消化させたいときに使い、じわじわ消化させて中・下部の病気に使うときは濃い糊で製薬したものを使う。
55 散薬と丸薬の効用
丸薬は、胸から上の病気には、細かく砕き、やわらかくして、消化しやすいようにする。胸からへそまでの病気には、小さな丸薬で堅い方がいい。身体の下部の病気には大きな丸薬で堅いものがいい。
湯で煎じた薬は、慢性の病気にいい。粉薬は、緊急を要する病気に用いる。丸薬はゆるやかな病気に用いる。
56 薬の調合と秤
中国の秤も日本の秤も同じものである。薬の調合は一服の分量を決めてから、それぞれの品の成分の重さを決める。重さを量るには、きわめて少量をはかれる秤を使う。薬は、大きさではなく、重さを基準にする。
57 香の効用
いろいろな香が鼻を楽しませるのは、いろいろな味が口を楽しませるのと同じである。香りによっては、心の平静を助け、落ち着かない心を静める。悪臭を消し、けがれを取り除き神明に通じる。(宗教的なものに、香が使われるのもわかる気がする。)
ひまがあれば静かな部屋に座り、香を焚いて黙座るのは、風雅な趣が増す。これも養生の一つであろう。
香には4種類ある。たき香、掛香、食香、貼香がある。たき香とは、いろんな種類の香をたくことである。掛香とは、かおり袋、においの玉などをいう。貼香とは、花の露、兵部郷(掛香用の、数種の香をブレンドした香組の名)がつける香である。食香とは食べて香りのいいもの、透頂香(ういろうのことで、痰の妙薬、口臭を取り除くのに用いる)、香茶餠(なんだろう?調査中)、団茶(なんだろう?調査中)などのことである。
58 悪臭をとり除く
悪臭を取り除くには、オケラの根茎を乾かしたものをたくのがいい。胡すい(コエンドロの漢名、サンケイ科植物)の実をたくと邪な気持ちをなくすことができる。痘瘡(天然痘などのこと)のけがれを取り除くには、いろいろな草をほしてたくと、大小便の毒素をなくす。(これは、ワクチンを用いないとだめだろう。)手のけがれは、いろいろな草の生葉をもんでぬりこむのがいい。なまぐさい臭いや悪いものを食べたときは、胡すいを食べれば悪臭がなくなる。いろいろな草の若菜を煮て食べれば味も身体にもよい。
59 便秘の療法
下痢をしやすいのは、おおいに悪い。少し便秘するのはいい。老人の便秘は長寿の証である。おおいによい。だが、ひどい便秘はよくない。胃腸に食物が停滞して腹痛を起こし、食欲がなくなり、病気になる人が多い。このような人は便秘にならないように治療しないといけない。麻の種子や杏の種皮を取り去った中身や、胡麻などをよく食べると、便秘にならない。
60 丸薬より早く効く薬の製法
身体の上部・中部の病気に使う丸薬は、早く消化するのがいい。だから小さな丸薬を用いる。早く消化させるためである。
もう一つの方法は、粉の薬に糊を加えて一般の丸薬にしないで、線香のように長さ23センチほどにして、手でもんで引き延ばし、線香より少し太くして天日にほす。これは一つすつ丸くしたものより消化しやすい。上部・中部の病気を治療するにはこれがいい。下部に達する丸薬には、この方法はよくない。この方法は、一粒ずつ丸くするよりも早く作れる利点もある。
巻第七 用薬 終わり
巻第八
養老
1 真心をもって親を養う
子は、親を養うことは当然である。親の心を楽しませ、親の心にそむかず、怒らすことなく、心配をかけない。住んでいるところを快適にし、飲食の味をよくし、真心をもって養わなければいけない。
2 子供のように老人を養う
老人は、気力体力が衰えているから、胃腸が弱くなっている。子供を養うのと同じように心を配らないといけない。飲食の好き嫌い、適度な温度に保ち、居室を清潔にし、風雨を防いで、冬は暖かくし、夏は涼しくし、よい環境を与えるように心がける。
盗賊・水害・火災などの災難があっても、両親を驚かせないように早く助けてやらないといけない。異変にあっても病気にならないように配慮しないといけない。老人は驚くと病気になりやすいから、注意しないといけない。
3 雑事をさける
老人は余命も長くないと思う。心配事も若いときのものとは違う。心を静かにし、雑事を少なくし、人との交際も少なくすることが、老人には適当であろう。これも、老人の気を養う方法である。
4 心を楽しく
老後は、若いときの10倍に相当する早さの感覚で月日が流れる。1日も無駄な日を過ごさせてはいけない。心を静かにし、残った日々を楽しみ、怒ることなく、欲を少なくし、身体を養うべきである。
子は、老人の1日は大切なものであることを心にかけて接しないといけない。
5 晩年の節度をたもつ
老いて子に養われるようになると、若いときから一緒にいるものに対しては怒りやすくなる。欲深く、子を責め、人をとがめて、節度をたもたない。心を乱すものが多い。そうならないように、自ら我慢も必要である。
若いときに慎み深く節度を守っている人が、老人になると欲深くなり、怒りやうらみが多くなる人が多い。
子としては、このことを念頭におき父母が怒らないように日頃から気をつかわないといけない。父母を怒らせるのは、子として不孝である。また自分の不孝を親に責められるのは、もっとも親不孝なことである。子が父母をうらみ不幸をするのは、悪人である。
6 老人の保養
老人の保養は、なによりも体力や気力を減らさないようにすることである。呼吸を静かにし、話もゆっくりし、言葉も少なくし、起居・歩行も静かにするといい。怒らず、昔の過失をとがめてはいけない。
また、自分の過ちも後悔しないほうがいい。人の無礼や無理な要求などに怒ったり、うらんだりしてはいけない。これらはみんな老人の道であり、徳行、慎みでもある。
7 気を惜しむ
老いると気力が少なくなる。気力をへらすことをさけなければいけない。まず、第一に怒ってはならない。憂い、悲しみ、泣き、嘆いてはいけない。葬儀に関わらせてはいけない。死者の家族を訪ねさせてはいけない。また、もの思いにふけさせてはいけない。
もっともいけないのは、多くを話すことである。早く喋ってはいけない。高い声で話したり、高笑いしたり、声高く歌ったりしてはいけない。
遠いところまで歩くのはいけない。早足で道を歩いてはいけない。重いものを持ち上げてはいけない。これは、みんな気力をへらすことになる。
8 酒食を吟味する
老人は体力・気力ともに弱い。これらを養うことが大切である。子は、この点をよく配慮しておかないといけない。まず親の心にそむかないで、心を楽しませ志を養わせる。
また、食事をするときは栄養のことに気をつかわないといけない。酒や食物は、よく吟味して味のよいものをすすめないといけない。老人は胃腸が弱いので、粗雑で刺激の強いものに弱い。
9 寒暑の外邪に用心
衰弱した老人は、胃腸が弱い。夏期はもっとも注意しないといけない。暑いため、生の冷たいものを食べると、下痢をしやすい。高熱をともなう下痢は、とても危険である。ひとたび病気になると、身体を非常に消耗させてしまう。残暑のときは、とくに注意をしないといけない。
また、冬の寒さや風などにも気をつけないといけない。
10 老人と五味
老人は、とくに生で冷えたもの、堅いもの、脂っこいもの、消化しにくいもの、こげて乾いたもの、古いもの、くさいものなどは食べてはいけない。五種類の味(甘・酸・鹹・苦・辛)のかたよりのあるものは、味が良くても多く食べてはいけない。夜食はとくに注意したほうがいい。
11 老人と寂寞
年老いてから、寂しいのはよくない。子は、ときどきそばにいて、古いことや現在の出来事を静かに話して寂しがらせない。
父母とあまり話さなかったり敬遠したりするのは、きわめて不孝なことであり、愚かなことである。
12 温暖の日の散歩
温暖な天気の日は、庭園や田畑に出たり高いところにあがったりして、気分を開放的にさせるといい。ときどき花木を愛し、鑑賞させて、心を快適にさせるのもいい。けれど庭や畑、花木に心を奪われて、心労するようなことがあってはならない。
13 無理をしない
老人は気が弱い。すべてのことに用心するといい。すでに取りかかっている事でも、自分には無理だと思えば、中断してやめないといけない。
14 七十歳をすぎる頃
年齢が70歳を越えれば、一年を無事に過ごすことだけでも、とても難しい。この頃になると年単位ではなく、日ごとに体力・気力が変わってくる。その変化は若いときの数年よりも激しくわかる。このように衰えていく身であるから、よく養生しないと天寿をまっとうできない。
この頃の年齢になると、一年が過ぎ去るのが、若い頃の1,2ヶ月が過ぎさるよりも早く感じられる。これからあとの年齢が少ないと思うなら、本当に少ないと考えないといけない。
子は、年老いた親には心をもって孝行し、むなしく過ごさせてはいけない。
15 日々を楽しむ
老いてからは、一日を十日ぐらいに思って毎日を楽しまないといけない。一日も惜しんではいけない。自分の思いが通じなくても、それは自分が凡人だから仕方ないと思い、子弟やその他の人の間違いを許し、とがめたり怒ったり恨んだりしてはいけない。
自分が不幸で裕福でなくても、世の中とはこういうものだと割り切り、憂い悩んだりしてしてはいけない。常に毎日を楽しまないと、もったいないことである。家が貧しく不幸にして飢えて死ぬことがあったとしても、死ぬまで楽しむのがいい。貧乏だからといって、人に文句をいい、不誠実な人間になり命ばかり惜しんではならない。(少しきつい、言い方だと思う。でも老人だからといって、なんでも許されるものでもない。)
16 心労をさける
老人になったならば、徐々に仕事や人との関わり合いを少なくするのがいい。多くの事に関わってはいけない。多くのことに関わると心労し、楽しみもなくしてしまう。
17 朱子の食養生
衰弱した人の多くは、飲食過多のために病気になったためである。とくに肉類を多く食べると害になる。朝夕の食事には、肉類は一種類にし、少なく食べる。肉を使った汁物があるときは、副食に肉を使わない。晩食に肉を使わない方がいい。肉を多くとると、食通が悪くなる。肉を少なくすると、胃の負担がへり、経済的にもいい。若い人も、これを守るべきである。
18 老人と外出時の用心
老人は、大風・大雨・大寒・大暑・深い霧のときは、外出してはいけない。こうしたときは家の中にいて、身を守るといい。
19 老人と小食
老いると胃腸が衰えて弱くなる。食事は少なめがいい。多食することは危険である。老人の急死のほとんどは食べ過ぎである。若いときと同じように、食べ過ぎると消化不良を起こして病気になり死ぬ。心に決めて過食しないようにすることだ。ねばっこい飯、堅い飯、餅だんご、麺類、おこわ、獣の肉などは消化しにくいので、多く食べてはいけない。
20 老人の食事
老衰の人は、雑なものを多く食べずに、精のつくものを少し食べるといい。
21 老人と食餌療法
老人が病気にかかったときは、まず食事療法を行う。それで治らなければ、薬で治療をする。人参や、黄ぎなどの上等な薬は、衰弱が激しい病気ののときは使用してもいい。
病気のないときは、穀物や肉類で栄養をとるほうが、上等な薬を用いるよりもはるかに効果がある。だから、老人は常に味のよい、体にあった食物を少しずつ食べるのがいい。病気でもないのに薬は使用してはいけない。
22 間食をさける
朝夕の食事を日頃のように食べて、その上に、こなもちや麺類などを若いときのように多く食べてはいけない。消化不良を起こすからである。ただ、朝夕の食事は味をよくして食べてもいい。昼間や夜中、そのほかの時間に食事をしてはいけない。とくに薬を飲むときは、決められた食事の時間以外には食べてはいけない。
23 老人と楽しみ
年をとったならば、心の楽しみのほかに気をつかってはいけない。時流にしたがって楽しむといい。悩み事がなく、四季の移り変わりや、美しい風景、自然の美しさなどを、楽しむのがいい。
24 心身を養う
老後、勤めごとのない人は、つねに心と身体を保つことに工夫をこらさないといけない。無益に、努力や技術をおぼえようと苦労してはいけない。
25 世俗から去る
朝は静かな部屋に座って、香をたき、儒学の教典などを声をだして読み、心を清め、俗念を取り去るといい。
風もなく、乾燥している天気のときは、庭に出てゆっくりと散歩をし、草木を愛玩し、その風景を楽しむ。部屋に戻っても、世事を離れてのんびりとしていればいい。
ときには、机の上や部屋の中の塵を掃除するといい。いつもぼんやりと座っていたり、横になって眠っていてはいけない。また、ひろい範囲で人付き合いをしてはいけない。老人には無理になる。
26 静養第一
常に静かに落ち着いて休んでいるのがいい。無理なことをしてはいけない。老人は少しの労働により損傷、疲労、憂鬱になり、大病を起こし死にいたることがある。注意していないといけない。
27 あぐらをかくこと
老人は、つねに背もたれのあるところであぐらをかいて座っているのがいい。横になって休むことを好んではいけない。
育幼
28 三分の飢と寒の中で
小児は、少し空腹にさせ、少し冷たい思いをさせながら育てるのがいい。
子供だけでなく、大人にもこうした苦労をさせるといい。子供に美味な食事をあたえ、上等な着衣を与え暖めすぎるのは、のちのち大きな厄になる。俗人と婦人は、物事を知らず子を育てる方法を知らない。(言い切ってる。違う人もいると思うけど。)ただ、腹一杯おいしい食事を与え、厚着をさせ暖めすぎるので、子供はかならず多病になり短命になる。貧しい家の子供の方が衣食とも乏しいので、かえって病気になりにくく長命である。
29 小児は外に出せ
小児は胃腸が小さく弱い。病人と同じように、食べ物に気をつかわないといけない。小児は、体温が高いので、熱をださないようにしないといけない。暖めすぎると、骨や筋肉を弱める。天気のよいときは、外に出して、風や日光に当たらせるのがいい。(子供は風の子、太陽の子。と、有名な言い回しです。)身体が丈夫になって病気をしない。着るものは古いものを用い、新しい布や綿の服は体を暖めすぎるのでよくない。
30 小児の保養法
小児の健康と活力を養う方法は、香月牛山(益軒の弟子、福岡県の医者)の著書『育草』に詳細に述べてある。ここでは省略する。(手抜きだ!)
痰
31 鍼の効用
鍼の効用は、血液の流れを整え、胃腸の働きを戻し、手足の頑固なしびれを取り除く。
また、高ぶる気持ちを抑え、気力をつけさせ、全身に力を導き出す。積滞(多分、血管に関する病気と思う?血のめぐりのとても悪い状態かも。)や腹痛などの急病に用いる。薬や灸よりもはやく回復させることができる。急病でないのに鍼を用いると、逆に元気がなくなる。
血のめぐりをよくし、気力をつけさせると、食事療法や薬の効果を助ける。
血気盛んな状態や、気力を失っている人、汗をたくさん出している人、とても疲れている人、とても空腹な人、とてものどの渇いている人、新に飽ける人?、大変おどろいている人、形気不足?、病気の人などには、鍼を刺してはいけない。
入浴したあと、すぐに鍼を刺してはいけない。酒に酔った人、食事のあと満腹な人にも鍼は刺してはいけない。
鍼は、薬や灸よりもすぐに効果が現れる。鍼の利害をよく検討しないといけない。強く刺してひどく痛む鍼はよくない。また鍼を刺してはいけない人に使用すると、かえって病気を増やしてしまう。注意しないといけない。
32 衰弱した老人と鍼
老人で衰弱している人は、薬を使った療法・鍼灸・導引(ストレッチ運動のようなもの)・按摩などで、早く病気を治したいと思って激しくするのは厄のもとである。そのときは快適だとしても後で害になる。
灸法
33 灸の効用
人間の活動的な力とは、温かい力である。活動的な力がないと病気になり、血のめぐりも悪くなる。そこで灸による火気の力で、活動的な力を補う。すると気力が出て、胃腸の調子がよくなり食欲が出て、血液のめぐりもよくなり、病気を回復させる。
34 艾葉の製法
よもぎの葉でつくる、もぐさ(灸で使う燃え草)は、3月3日、5月5日に採る。長いのはよくないので、3月3日に採るのがもっともよい。光沢のある葉を選んで、一葉ずつ摘み取って、ひろい器に入れ、一日中、天日に干してのち、ひろく浅い器にいれ、ひろげて陰干しする。数日後、よく乾いたとき、また日に少し干してすぐに取り入れ、暖かいうちに臼でよくつき、葉がちいさく砕け屑になったものを、ふるいで分け、白くなったものを壺か箱、袋に入れて保存する。
乾いた葉を袋に入れておいて、使うときに臼でついてもいい。茎と一緒に軒につっておくのはよくない。効能が弱くなる。使ってはいけない。3年以上経過したものも使うのがいい。使う前に火であぶり乾かすと、灸の火力が増す。湿ったものはよくない。
35 艾葉の名産地
滋賀の伊吹山、栃木県の標茅原(しめじがはら)などが、よもぎの葉の名産地である。でも使う時期を逸したものや、できのよくないものは用いない方がいい。ほかの場所でできたものでも、土地のよいところで葉に光沢のあるものは使用してもいい。
36 艾ちゅうの大小
もぐさの芯の、すえてもらう人が元気なら大きく虚弱体質な人なら小さくする。数を多くするかどうかは、灸をする場所によって違う。
熱さに我慢できない人は、多くすえてはいけない。我慢しすぎると、気力が減り上気して大いに害になる。やせて弱く怖がる人には、灸のはじめの熱の痛みに我慢できないときは、もぐさの芯に塩水を多くつけるか、塩のりをつけて一つの場所に5から7カ所に灸をしてから、いつものようにすると我慢しやすい。
それでも我慢できないときは、灸の初めの5,6カ所を早めにとってしまうといい。そうすると、我慢しやすい。気がのぼせやすい人には、一時に多く灸をしてはいけない。また肌の薄い部分、頭や顔や四肢などに灸をすえるときは、小さいものがいい。
37 灸と火の選択
灸に使う火は、日差しをレンズで集め火をつけるといい。また火打ち石で、白石または水晶を打って火をだすのもいい。火をとったならば、香油(においのいい油、頭髪などに使う)を使った灯り(ランプのようなもの)に火を移して、その火でもぐさの芯に火をつけるのがいい。あるいは灸を先に体につけておいて、香油を塗った照明のために使う木(松明のようなもの)に火をつけて、その火をもってつける。
松・柏(ヒノキ・サワラ・コノテガシワの類の古名)・枳(「からたち」、ミカン科の落葉低木)・橘(食用柑橘類の総称、ニホンタチバナの別称)・楡・棗・桑・竹などの八木の火はよくないので、用いないのがいい。
(太陽の光をレンズで集めるなんて、まるでオリンピックみたいだ!ようするに、匂いの悪い火で灸に火をつけるのはよくないのだろう。匂いの悪いものは、普通の時に嗅いでも気分のいいものではないし。)
38 灸をする姿勢
座ってもぐさを身体につけたなら、その姿勢のまま灸をすえる。横に寝てもぐさをつけたなら、同じくそのまま灸をすえる。火をつける順番は、上の方、量の少ない方を先にする。
39 灸をするときを選ぶ
灸をするときは、冷たい風に当たってはいけない。大風・大雨・大雪・陰霧(暗い霧?、気分の悪くなる霧かも、春の霞とは違うようなものかも)・大暑・大寒・雷電・虹(きれいなものだけど、何か関係あるのだろうか。雨上がりで湿っぽいからか?)などの時は、灸をしてはいけない。急病のときは、それらに関わらずしてもいい。満腹、空腹がひどいときや、酒に酔っているとき、悩み悲しんでいるとき、その他不運のときにはしてはいけない。
房事は、灸をした前3日、後7日はさけるのがいい。冬至の前5日、後10日間はしてはいけない。
40 灸後の食事
灸をしたあとは、さっぱりしたものを食べて、血のめぐりを良くして落ち着かせるといい。(興奮して血圧を上げてはいけない。)大食はいけない。酒に酔うほど飲んではいけない。熱い麺類、生で冷たいもの、冷酒、体調を変にする食物、消化しにくい肉などは食べてはいけない。
41 身体の強弱と艾ちゅうの大小
古い本には、もぐさの芯の長さが1センチでないと、火の効果が伝わらないといっている。今でも元気で体格がよく、熱の痛みにたえるひとは、大きな芯で多くしてもいい。
虚弱で元気のなく、肌の肉付きの悪い人は、もくざの芯を小さくして我慢しやすくするといい。数も半分くらいでいい。我慢しすぎると体によくない。
病状や人によって、使う量や多さを決める。古い本に書いてあることにこだわってはいけない。虚弱な人には1日に1カ所か2カ所くらいでもいい。
42 灸瘡の処置
灸をしたあとに、かさぶたができないようでは病気は治らない。自然に灸をしていてもかさぶたができない人がいる。そのときは、人工的につけてもいい。
虚弱な人は、かさぶたができにくい。そのときは、赤いネギの青い部分を取り除いたもの3から5茎、糠の熱い灰の中に埋めて熱くし、それで灸のあとを何度も暖める。または、生の麻油(ごま油みたいなものだろうか?)を繰り返しつける。何度も同じ場所に灸をする。焼き鳥、焼き魚、暑いものを食べて、かさぶたを作る方法などがある。灸のあとを熱湯でもって温め、かさぶたを作るもの一つの方法である。
43 阿是の穴
押してみて強く痛むところは、灸のつぼに関係なくある身体中にある。これらは灸をすべきところである。これが「阿是の穴」というのである。
人は、奥深い山の奥深い谷とか、山から吹いてくる悪い成分を含んだ風、海辺の湿り気のある悪い場所、悪い成分を含んだ土地などにいて、病気になり死ぬこともある。あるいは疫病やはやり病などが流行しているときなどは、あらかじめ、「阿是の穴」に灸をしておき、寒さや湿り気などから防備しておき、病気にならないようにする。
灸をして、かさぶたを絶やさないようにしていれば、病気になりにくい。しかし灸をしてはいけない場所や、同じ部分に多く、灸をしてはいけない。
44 毎日すえる灸の効果
胃と膀胱の灸のつぼに一度に多くの灸をすると、気がのぼせて痛みに耐えらないといい、一日に1,2回、それを毎日続けて100回にいたる人がいる。また胃に属するつぼに毎日1回を100日続ける人がいる。
これらは、悪い環境から身を守り、風の影響を防ぎ、のぼせを治し、鼻血を止め、眼をはっきりさせ、胃の調子を上げ、食欲を増進させるので、もっとも有益だろう。
しかし、この方法を書いた医学の本は見たことはない。(つまり、養生訓で初めて書いたと自慢しているのだろう。)でも、この方法で効果があったという人は多い。
45 禁灸の日
治療法を書いた本の中には、灸をしてはいけない日が多く記してある。なぜ、灸をしてはいけないのか理由は明らかでない。
いろいろな諸説があるが、すべてを信用するはいけない。(だから、どうしろというのだろうか。まあ、理由を説明できないことがあっても守るほうがいいものもあるということだろう。)
46 小児への灸
小児が生まれてから、まだ一度も病になっていないときには灸をしてはいけない。もし灸をすると、癇癪(脳膜炎ににた症状)をおこす。癇癪を起こしている小児に、第4胸椎・へその横などに灸をしたとき、ひどく痛がるときは一度取り去ってからもう一度灸をするといい。
もし、激しく痛がるようであれば強い癇癪を起こすかもしれないので、注意する。激しく痛むのなら我慢させてはいけない。小児には小麦の大きさくらいの灸をするといい。
47 首すじに灸は不可
首筋の部分の上部に灸をしてはいけない。気がのぼせてしまうからである。老人がのぼせると、癇癪にずっとなってしまう。
48 灸の効用?二月灸と八月灸と
胃腸が弱く食通が悪い人、または下痢をする人は、元気が不足しているからである。こうした人には、灸はとてもいい。火の力によって、気力が出て胃腸に元気が戻る。それで血のめぐりもよくなり、食通もよくなり食欲も出てくる。
毎年2月と8月にへその横、へそのすぐ上、第12胸椎の上端、薦骨(脊柱の下端部すなわち腰部にある二等辺三角形の骨)の真中、胃に属するつぼに灸をするといい。第十二肋骨部、第十肋骨部分にも交互に灸をするのもいい。胃と膀胱の灸のつぼにするのは、もっとも効果的である。
胃腸が弱く食通が悪い人は、毎年2月と8月に灸をするのがいい。へその両側6センチ、または4.5センチの部分に交互に灸をするといい。もぐさの芯の大きさと量は、その人の症状、体格をみて決めればいい。
虚弱なひと、老衰の人は灸を小さく、回数も少なくするといい。へその横にするときは、気の弱い人なら1日1回、あるいは2日に1回、4日に2回くらいがいい。一度に多くして無理をしてはいけない。日数がたってから灸をしてもいい。
49 灸のつぼ
灸のつぼを選んで灸をする。むやみに多く灸をすると気力が減り、血のめぐりが悪くなる。
50 頓死者の灸
すべての急死した人や、夜にうなされて死んだ者には、足の親指の爪の甲の内側で、爪から少し離れた場所に、5回か7回の灸をするといい。(死んだ人が、これで生き返るとは思えないけど、何か意味があるのだろう。死んだ肉体にもやすらぎを与えられるとでも考えているのだろうか。リアリストには、考えても理解できないことだろう。)
51 老人と灸
衰えた老人は、身体の下部に力が少なくなる。それで、のぼせやすくなる。多く灸をすると、ますます足腰が弱くなる。とくに上部と脚に多くの灸ををしてはいけない。身体の中部に灸をするにしても、ちいさな灸で、1日に1回か2回、一カ所にたいし10どばかり灸をするといい。毎日回数を重ねて、10回くらいするといい。
しかし、老人といっても人によっては灸に強い人がいるが、用心をするのにこしたことはない。
52 病人と灸?ひねり艾と切り艾
病人は気が弱くなる。日頃使っている灸の大きさのものでも我慢できない人がいる。こうした人には、もぐさを切って小さくしたものを用いる。1ぐらむのもぐさにして、それを長くのばし、紙に巻いてその端をのりづけし、天日に干し、一日ごとに片方をまっすぐ、もう一方を斜めに9ミリ切り、まっすぐのほうを下に厚い紙を貼り付け、天日に干したものを使う。
灸をするときに、塩のりを下につけてすると、熱の痛さも我慢できる。もぐさの下にのりづけすると、下まで燃えないので熱さは我慢できる。そのようにしたものは、長く燃えるので、身体の内部まで効果がある。
53 腫れものと灸
危険なできものや悪性の腫れものが、出来始めたときは、早く灸をすると、腫れあがらないで治る。化膿しても、毒が軽くなり早く治る。首筋から上にできたものは、直接灸をしてはいけない。へその横とすぐ下にするといい。腫れものができてから、7日がたてば灸をしてはいけない。
このようなときは、医者に相談して灸をしないといけない。
54 灸をする時刻
灸は午後するといい。
巻第八終
養生訓の後記
これまで書きつづったものは、古い時代の人たちの言葉や内容をわかりやすく言いなおしたものである。また、先輩たちに教わったことである。自分で試してみて効果のあったものは、仮説のようなものでも書き記した。これらは、養女の大意である。詳しく知ろうと思うなら、ほかにたくさんの書物を読むといい。おおざっぱに理解していても、詳しく知らないと養生の道をきわめることができない。
私は、昔、若いときに読んだたくさんの書物の中にある養生の術を集めて、弟子たちと項目ごとに分類して、『頤生輯要』(1682年)という書物を編集した。養生の道を進みたいと思う人は、この書物を参考にしてほしい。その書物の要点を元に、養生の意義をおしひろめたものである。
八十四翁貝原篤信書
正徳三癸巳年(1713)正月吉日
巻第八 養老 終わり